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2014年04月23日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2014年2月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2014年2月号誤解を招くL-カルニチン関連の研究とニュース

今月の話題
誤解を招くL-カルニチン関連の研究とニュース
パーキンソン病および多発性硬化症へのビタミンDの効果
ビタミンEがアルツハイマー病の進行を遅らせる
血管疾患を予防する地中海式食事法

誤解を招くL-カルニチン関連の研究とニュース

昨年、ナショナル・パブリック・ラジオ(訳注:米国の公共ラジオ局)のニュース放送で、ある研究者のインタビューを聞きました。これは、食事成分ならびにサプリメントとしてのL-カルニチンに関するもので、それが心疾患のリスク増加に関連している可能性があるというものでした。こうしたインタビューという方法を含めて、彼の研究は広く報じられており、それによって多くの人々がカルニチンのサプリメントを避けるに至ったおそれがあります。しかし、その結論はデータから見て不当なものでした。それなのに、またしても、サプリメントに否定的なマスコミ報道の一例です。このレポートは、遺伝子操作によって特にアテローム性動脈硬化症になりやすくしたマウスの研究に基づくものでした。そのマウスは、血液からのコレステロール除去に役立つアポリポタンパク質Eを産生するための遺伝子を欠くものでしたが、このマウス実験は、その研究の一環として行われたものに過ぎません。それと同じレポートに含まれていた2,595人の被験者の調査結果において、血中カルニチン値が高いほど心疾患の発症リスクが高まるという関連が見られたのです。(Koeth RA, et al., Intestinal microbiota metabolism of L-carnitine, a nutrient in red meat, promotes atherosclerosis. Nat Med. 2013 May;19(5):576-85 doi: 10.1038/nm.3145. Epub 2013 Apr 7.)

カルニチンは、エネルギーの産生にとって重要な物質です。これは、脂肪酸をエネルギーに変換することができるミトコンドリア内に脂肪酸を運ぶ分子です。人間は肝臓と腎臓でカルニチンを作りますが、加齢や疾患により、十分生産できないことがあります。そうした場合に、心血管と筋肉の健康を維持するため、サプリメントが重要となります。カルニチンのサプリメントが、心機能をはじめ、狭心症の軽減、運動能力の向上、心臓発作後の死亡率の低下に役立つことは、数々の研究で確認されています。カルニチンは、足に血液を運ぶ動脈の狭窄による下肢痛(間欠性跛行)を軽減することにより、歩行距離が伸びることもあります。カルニチンが有害であるという結果を主張する研究では、こうした既知の効果について反証するため多数の証拠が必要となります。

上記の研究のデザインならびに結果には、明らかにいくつかの問題があります。その説明は少し難しいのですが、見る価値はあります。一部の腸内細菌叢(細菌などの微生物)は、ホスファチジルコリン(PC)を、酵素活性によってトリメチルアミン(TMA)に変換し、さらに、トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)に変換します。TMAOは心臓にとって有害です。これらの微生物は、カルニチンもTMAOに変換しますが、赤身肉を摂る人には、こうした微生物が特にたくさんいます。その理由の一つは、獣肉には大量のカルニチンが含まれているからです。獣肉を食べる人のほうが、TMAOを作り出す細菌の発生数が多く、菜食主義者や完全菜食主義者は、その数が非常に少ないのです。抗生物質を使うとTMAOのこのような増加が阻止されるため、こうした細菌が原因であることがわかります。TMAOは海水魚にも大量に含まれていますが、海水魚を摂ると心臓の健康に役立つようなので、TMAOそのものがすべての答とは限りません。

上記の研究におけるマウスの調査では、マウスに与えたカルニチンの用量にも問題があります。マウスには15週間、飲み水に1.3%のカルニチンを入れて補給しましたが、これを置き換えると、体重1 kg当たり1日約2グラムという量となり、体重が155ポンド(約70kg)がこれと同じ量を得るためには、1日140グラム摂らなければなりません。これは、毎日8オンス(約230g)のステーキを食べた場合に得られる量の約800倍です。サプリメントの一般的な用量は、1日1~3グラムです。(Ussher JR, et al., Gut microbiota metabolism of L-carnitine and cardiovascular risk. Atherosclerosis. 2013 Dec;231(2):456-61.) Ussherとその同僚が指摘しているとおり、マウスは人間ではないのです(まるで我々が知らなかったかのようです)。なぜなら、コレステロールと脂質の代謝方法や、心血管の生理機能とプラークの病理が人間と異なり、血栓症による血管閉塞が生じないからです。

Koeth他による上記の研究のうち人間の調査では、250 mgのカルニチン・サプリメントの摂取後、数時間以内に血中TMAO値が上昇することに彼らは気付きました。そこから結論を引き出したことの問題は、サプリメントと同時に、180 mgのカルニチンを含む8オンス(約230g)のサーロインステーキも被験者に与えていたことです。ステーキには、カルニチンだけでなく、コリンも豊富に含まれているため、何がTMAO値の上昇をもたらしたのか不明です。一方、この研究部分における完全菜食主義者には、ステーキは無しでカルニチンのサプリメントのみが与えられ、24時間にわたる彼らのTMAO値の変化はごくわずかなものでした。コリンとカルニチンからTMAOを作り出す細菌の増殖が、獣肉の事前摂取によって活性化されるようです。

血中カルニチン値が高い被験者グループのほうが心疾患の発症が多いという調査結果は、血液中のカルニチンが有害であることを意味するものではありません。これは観察研究であるため、カルニチン値との因果関係について結論を出すことはできません。むしろ逆に、アテローム性動脈硬化症や心疾患の発症によって実際に血中カルニチン値の上昇がもたらされた可能性があります。腎機能について被験者のデータを調整したところ、血中カルニチン値と心疾患との関係が見られなくなったことから、カルニチン値の上昇は、循環器疾患によく見られる腎機能の低下による可能性があることも示唆されています。

Koeth他が上記の研究で出した理論的結論に反するデータは他にもあります。あるメタ分析(複数の研究を調べたもの)では、被験者の合計が3,629人となる13の研究を対象とし、カルニチンのサプリメントについて、死亡率、心室性不整脈、狭心症、心不全、再梗塞(再発性心臓発作)に対する効果を評価しました。プラセボ群または対照群と比較して、カルニチンには、27%の全死因死亡率低下、65%の心室性不整脈リスク低下、40%の狭心症リスク低下との関連が見られました。また、心不全と再梗塞のリスク低下も見られましたが、その低下率は有意な域には達していませんでした。この研究は、前述の否定的な研究の1週間後に、まずオンラインで公表されましたが、前述のような大衆向けのメディアではレポートされませんでした。(DiNicolantonio JJ, et al., L-carnitine in the secondary prevention of cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis. Mayo Clin Proc. 2013 Jun;88(6):544-51. doi: 10.1016/j.mayocp .2013.02.007. Epub 2013 Apr 15.)

実践的ガイドライン

カルニチンのサプリメントは、心疾患があるどんな人にも役立ち、症状ならびに全体的な機能を改善します。また、心疾患による死亡率も、原因を問わない死亡率も、これによって低くなります。アスリートの場合は、激しい運動中に生じる組織損傷が低減されるので、運動トレーニング後の回復に役立つ可能性がありますが、そのデータに一貫性はありません。体内でのカルニチン生成量は加齢により低下するため、年齢を重ねるにつれ、サプリメントで全般的な効果が得られる可能性があります。1日3,000 mgも摂ると吐き気や下痢を生じるおそれがあると示唆しているレポートが時折見られますが、カルニチンは極めて安全性が高く、1日当たり3,000 mg以上摂ると効果があると思われます。私は1日3,000 mg摂っており、心臓の健康に役立てるため6,000 mgもの量を摂ることもありますが、それ以上摂った場合でも極めて安全です。



パーキンソン病および多発性硬化症へのビタミンDの効果

パーキンソン病の患者にはビタミンDが役立つ可能性があることを示す新しい研究がありますが、その見出しを見たら、決してそうとはわからないでしょう。これは「Vitamin D levels linked to Parkinson’s symptoms(ビタミンD値とパーキンソン病の症状との関連)」というもので、ビタミンDがパーキンソン病の症状をもたらすことを連想させます。実際にはその逆が真なのですが、見出しを読んだだけでは知る由もないでしょう。ビタミンD受容体は、脳のいたるところで見られます。動物実験では、神経の発達、ミトコンドリア機能の安定化、抗酸化、ならびに神経栄養因子の数値増加にとってビタミンDが重要であることが示唆されています。

この新しい研究では、パーキンソン病がある被験者286人を含めて、認知機能、言語記憶、言語流暢性、視覚機能、実行機能に関するパーキンソン病重症度評価スケール、ならびにうつについて評価しました。血中ビタミンD値が高いほど、数々の神経精神医学的検査の成績、とくに言語流暢性と言語記憶の成績が良いという関連が見られました。また、ビタミンD値が高いほど、うつのスコアが良いという相関も見られました。(Peterson AL, et al., Memory, mood, and vitamin d in persons with Parkinson's disease. J Parkinsons Dis. 2013;3(4):547-55. doi: 10.3233/JPD-130206.)

最近公表された別の研究では、低ビタミンD値が多発性硬化症患者における症状進行と予後に悪影響を及ぼすことがわかっています。この研究では、多発性硬化症患者465人について、ビタミンDの状態を調べ、5年間追跡しました。ビタミンD値が高いほど、多発性硬化症の活性が低下し、進行速度が遅くなることが予測されました。また、最初の12カ月以内に血中25-ヒドロキシ・ビタミンD値が20ナノグラム/mL高くなると、新たな活動性病変が生じる率が57%低下、再発率も57%低下することが予測され、またこの他の効果も調査期間全体にわたって見られました。(Ascherio A, et al., Vitamin D as an early predictor of multiple sclerosis activity and progression. JAMA Neurol. 2014 Jan 20. doi: 10.1001/jamaneurol.2013.5993. [印刷物に先行した電子出版])

実践的ガイドライン

血中ビタミンD値を高めることの効果がこれほど多くわかっていることから、まず自分の25-ヒドロキシ・ビタミンD値を調べてもらい、必要であればサプリメントを用いて十分な量を確実に摂ることが重要です。正常値は通常、20~40 ng/mL以上とされていますが、多くの専門家は、40~50 ng/mLあれば申し分ない考えています。ビタミンDカウンシル(訳注:米国の非営利組織)は、40~50 ng/mLあると良いと示唆していますが、もっと高値ならさらに効果が得られる可能性があると述べています。 パーキンソン病患者と多発性硬化症患者にとって、これは特に重要です。このような高い値を維持するにはサプリメントが必要になることが多く、人によっては、ビタミンD値を健康に良い範囲まで高めるのに1日3,000 IUという量を摂る必要があります。100 ng/mLというほど高い値でも、優に安全範囲内です。私の場合、1日5,000 IU摂っても、48 ng/mLまでしか上がらなかったので、しばらくはその倍の量を摂ってみてから再検査することにしました。結果を報告できるようになったら、ご報告します。




ビタミンEがアルツハイマー病の進行を遅らせる

ビタミンEのサプリメントには、同じく抗酸化栄養素であるコエンザイムQ10の高量摂取と同様に、アルツハイマー病の進行遅延との関連が何年も前から見られています。その一例として、1997年に公表された研究では、1日当たり2000 IUのα-トコフェロールのサプリメント摂取によってアルツハイマー病の進行が遅くなっていました。(大規模な試験で最もよく使用される形態は、天然のd-α-トコフェロールではなく、合成のdl-α-トコフェロールであり、この合成物より多く食品に見られるγ-トコフェロールの研究は滅多になされません。) (Sano M, et al., A controlled trial of selegiline, alpha-tocopherol, or both as treatment for Alzheimer's disease. The Alzheimer's Disease Cooperative Study. N Engl J Med. 1997 Apr 24;336(17):1216-22.)

つい最近公表された研究では、軽度~中程度のアルツハイマー病患者613人に、2000 IUのα-トコフェロール、1日20 mgのメマンチンという薬、その2つの組合せ、もしくはプラセボのいずれかを与え、症状スコアと、認知面、神経精神面、機能面および介護関連の測定値を調べ、被験者を5年間追跡しました。(Dysken MW, et al., Effect of vitamin E and memantine on functional decline in Alzheimer disease: the TEAM-AD VA cooperative randomized trial. JAMA. 2014 Jan 1;311(1):33-44.)

この調査期間を通じて、ビタミンE(α-トコフェロール)のみを与えたグループでは、アルツハイマー病のスコアにおいて、3.15ポイントという有意な改善が見られた一方、薬を与えたグループとプラセボを与えたグループでは、有意な低下は見られませんでした。 α-トコフェロールのグループにおけるこの変化を臨床的進行の遅延に置き換えると、1年当たり19%、つまり、追跡期間においては6.2カ月分遅くなったことになります。これは大きな効果には見えないかもしませんが、介護時間、養護施設の費用と負担、ならびに患者の安らぎという点で大きな救済となり、この平均値を大幅に上回る効果が得られる患者もいることを意味します。

1997年に公表されたほうの2年間にわたる前述の調査では、死亡、施設入所、日常生活における基本的活動の遂行能力の喪失、もしくは重度の認知症のいずれかが発生するまでの時間を、主要転帰(訳注:主な効果測定指標)としました。この研究でも、α-トコフェロールのみの場合のほうが、プラセボ、投薬治療、薬+α-トコフェロールの組合せの場合より、良い結果が見られました。α-トコフェロールのグループでは、プラセボのグループと比べて、主要転帰が約8カ月遅くなっていました。

実践的ガイドライン

ビタミンEについて、マスコミは最近かなり否定的に扱っていますが、ビタミンEの効果は数々の研究で見られており、天然型のものやγ-トコフェロールを加えたものではなく、合成型の純粋なdl-α-トコフェロールを使った場合でも、効果が見られています。予防薬として用いる場合は、d-α-トコフェロール400 IUに加えて、ほぼ同量のγ-トコフェロールを摂ること、また、認知症の患者病歴や家族歴がある場合は、それより多い量を摂ることをお勧めします。ビタミンEは、もっと多い1日2,000 IUという量を摂っても、きわめて安全です。γ-トコフェロールが多く含まれている混合型トコフェロールのサプリメントは入手可能です。





血管疾患を予防する地中海式食事法

昨年の記事で、心臓発作と脳卒中の予防における地中海式食事法の効果を示した研究をご紹介しました。その研究はスペインで行われたもので、Prevencion con Dieta Mediterranea(地中海式食事法による効果)を略して「PREDIMED」と称されています。その最新データの追跡調査分析が最近行われ、末梢動脈疾患(間欠性跛行、つまり歩行時の下肢痛)に対する特定の危険因子がある患者における、地中海式食事法とこの疾患の予防との関係が調べられました。追跡した被験者は7,435人で、3つのグループに分けられました。その一つは地中海式食事法を実践してナッツを追加摂取するグループ、一つは地中海式食事法を実践してオリーブオイルを追加摂取するグループ、もう一つは「低脂肪食」の指導を受ける対照グループでした。

この被験者(55~80歳の男性および60~80歳の女性)の追跡は2003年から2010年まで行われ、血管疾患の危険因子には、喫煙、糖尿病、肥満などが含まれました。対照の食事グループでは、動脈疾患の割合が1,000人年当たり4.7でしたが、地中海式食事法+ナッツのグループでは、この割合が2.5まで下がっており、地中海式食事法+オリーブオイルのグループでは1.5まで低下、つまり、相対リスクに70%の低下が見られました。絶対リスクの低下については、最高率がそれほど高くなかったため3.5%に過ぎませんでしたが、この変化を多数の人口に当てはめて計算すれば、この深刻な疾患から救われる患者数は意義のある数となります(10万人を10年間追跡した場合に、苦しみを遅らせるまたは防ぐことができる人の数が35,000人ということになります)。 (Ruiz-Canela M, et al., Association of Mediterranean diet with peripheral artery disease: the PREDIMED randomized trial. JAMA. 2014 Jan 22-29;311(4):415-7. doi: 10.1001/jama.2013.280618.)

実践的ガイドライン

実践方法は実に単純です。食事で、野菜、果物、全粒穀物、マメ科植物、ナッツ類、種子類を多く摂り、少量のオリーブオイルと天然魚を摂り、砂糖、精製小麦粉、獣肉、乳製品は最小限に抑えましょう。こうした食事方法が慢性疾患と死亡率の低減に役立つというデータはかなり明確です。進化生物学者のMarlene Zukが書いた本「Paleofantasy(パレオファンタジー)」を読めば、旧石器時代の食事と考えられているものをまねる努力は見当違いであることがわかります。現代の「弱々しい」生活習慣は、進化論的な神話に根差しているのです。(訳注:pale(弱々しい、蒼白い)はpaleo(原始の)に引っ掛けていると思われます)
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