2016年06月08日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2016年6月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2016年6月号クルクミンを不当に批評した新聞記事

今月の話題
◆クルクミンを不当に批評した新聞記事
◆アルコール、加工肉とガンとの関係
◆黄斑変性症を防ぐルテイン
◆ストレスの軽減による心臓リハビリへの効果


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クルクミンを不当に批評した新聞記事

4月22日付のニューヨーク・タイムズ紙に、クルクミンのサプリメントを批評した記事がありました。クルクミンはフィトケミカルの一種で、ターメリックの明るいオレンジイエローの色素です。その記事の冒頭では、クルクミンに抗酸化特性・抗炎症特性・抗ガン特性ならびに神経保護特性があることが実際に述べられていました。その次には、取材したライナス・ポーリング研究所の科学者の発言として、クルクミンが人にとって有益であると主張できるほど現在のエビデンスは十分でない、という言葉が載っていました。これに続けて記者は、「クルクミンの生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)は極めて低く、これは、人の体内にあまり長く留まらないという意味である…」と書いていました。しかし、「生物学的利用能が低い」とは、こうした意味ではありません(腸管からの吸収率が低い、または、効果的に細胞に取り込まれない、または、機能を抑制する他の分子と結合するという意味です。) 吸収率が悪いにもかかわらず、動物実験ではクルクミンを餌に混ぜて投与していました。

この記事によると、動物実験の場合、クルクミンは「大腸炎を緩和し、関節リウマチの過剰な免疫反応を抑え、外傷性脳損傷における神経炎症を軽減する」可能性があり、「小規模な臨床試験の結果、関節リウマチの硬直と腫脹の軽減において非ステロイド性抗炎症薬と同等の効果があることがわかっており、潰瘍性大腸炎の軽症化および突然の再発の低減に用いられる一部の標準薬よりも効果があった」ということです。

私は、発行されたこのニューヨーク・タイムズ紙について、以下の内容のコメントを送りました。
「生物学的利用能の問題は、他の場合なら重要ですが、クルクミンが少量で効果があるなら、ほとんど重要ではありません。多数の臨床試験や動物実験の結果から見て、少量で効果があるようです。仮に、1%しか利用されないとしても、1 mgで効果がある場合、100 mg摂れば臨床効果が得られることになります。一般的な用量は、標準エキスの形で300~500 mgです。こうした半科学的な見解からは、クルクミンがどのような方法で動物に投与されたのかわかりません。注射によってではなく、餌や水に混ぜて与えたとすれば、生物学的利用能が低くても生理学的効果が妨げられなかったことの証明となるでしょう。誰もが規模の大きい研究を好みますが、その資金を出そうとするのは誰でしょうか? そうでなくても、リスクがないのなら、なぜ治療や予防に利用しないのでしょうか? 食事でよくカレーを食べる所ではアルツハイマー病の発症率が低く、クルクミンがその原因の一つとなっているとも考えられます。関節リウマチの薬は、重篤な副作用を引き起こし、多数の死者をもたらします。安全な代替策があるのなら、少なくとも試す価値はあります。しきたりにとらわれない療法を進んで取り入れている医師として、私は、マスコミ界や医学界で非薬物療法への反感がはびこっていることを知っています。」
2006年に、ある研究グループが、潰瘍性大腸炎患者89人を対象とした臨床研究について発表しました。被験者は、試験の開始時点でこの病気が鎮静期にあった患者で、その半分にクルクミン1,000 mgが1日2回与えられ、残りの半分にはプラセボが与えられました。6カ月後の時点で、プラセボグループでは20%に再発が見られましたが、クルクミンを与えたグループでは4.6%にしか見られませんでした。(Hanai H, et al., Curcumin maintenance therapy for ulcerative colitis: randomized, multicenter, double-blind, placebo-controlled trial. Clin Gastroenterol Hepatol. 2006 Dec;4(12):1502-6.)

別の研究で、クルクミンが豊富に含まれているカレー食による肺機能の改善効果を調べたものがあり、習慣的な喫煙者と喫煙経験者では改善が見られました。ただ、非喫煙者にて見られた改善はごくわずかでした。(Ng TP, et al., Curcumin-rich curry diet and pulmonary function in Asian older adults. PLoS One. 2012;7(12):e51753. doi: 10.1371/journal.pone.0051753. 電子出版:12月26日)

クルクミンには、抗炎症特性と抗関節炎特性(関節炎の緩和効果)があることがわかっています。関節リウマチ患者45人を対象とした無作為化試験にて、クルクミン(500 mg)を投与するグループ、ジクロフェナク(非ステロイド抗炎症薬)を投与するグループ、および、その2つを併用するグループに分類して試験を行った結果、最も改善率が高かったのは、クルクミンを投与したグループでした。(Chandran B, Goel A, A randomized, pilot study to assess the efficacy and safety of curcumin in patients with active rheumatoid arthritis. Phytother Res. 2012 Nov;26(11):1719-25.)

その他にも、クルクミンには、慢性歯肉炎の治療において殺菌性洗口液のクロルヘキシジンと同程度の効果をもたらす可能性があること、また、乳ガン患者の放射線皮膚炎を軽減する可能性があることや、大うつ病の症状を軽減する可能性があることが他の研究で示されています。大うつ病への効果を示した研究については、以前に紹介しています。

実践的ガイドライン
私はカレー料理を食べる他にクルクミンのサプリメントも摂ることを、新聞記事によって思いとどまることはありません。クルクミンによるこうした実際の効果や潜在的な効果は本当であり、1日6,000 mgまで摂っても副作用はありません(ただし一部の研究では、ごく一部の被験者が消化器の不調を報告しています)。ニューヨーク・タイムズの記事で明確にしているのは、クルクミンの効果を得るには比較的大量に摂らなければならない、ということだけであり、その理由として彼らは確かに、吸収が悪いため、と指摘しています。私は、クルクミンを500 mgずつ1日2回摂っていますが、それならもっと摂らなければ、と思ってしまいます。


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アルコール、加工肉とガンとの関係

米国ガン研究協会と世界ガン研究基金が4月に発表したレポートによると、アルコールの摂取、体重過多、および加工肉(ベーコン、ホットドッグ、ハムなど)の摂取は、胃ガンのリスクを高める可能性があります。このレポートによると、胃ガンは世界で5番目に多く見られるガンで、2012年には世界で約952,000例が記録されており、それを発症する可能性は男性が女性の2倍となっています。

このレポートは、上記の団体による継続的更新プロジェクトの一環であり、食事・体重・身体活動度と胃ガンのリスクとの関係を調べた世界的な科学研究を集めた上で、国際的な第一級の科学者から成る審査団が、その情報の独立評価を行って結論を引き出しました。それによると、胃ガンの誘因には、その他に、喫煙、ピロリ菌感染、工業化学物質への暴露、多塵環境や高温環境への職業暴露、ゴム製造・採炭・金属加工・クロム製造の職業暴露が含まれるということですが、上記のレポートでは、こうした問題は扱われていませんでした。

上記の研究結果によると、アルコールを1日当たり約3杯以上飲むと胃ガンのリスクが高くなるという強力なエビデンスがあり、塩蔵食品および加工肉(ハム、ベーコン、パストラミ、サラミ、ホットドッグ、一部のソーセージなど)の摂取についても同様のエビデンスがあるということです。また、BMI(体格指数)による評価基準で過体重または肥満である場合、胃の上部の食道近くにガンが発生するリスクが高くなるという強力なエビデンスも見られました。また、それほど強力なものではありませんが、獣肉や魚をグリルやバーベキューで焼いて食べると胃ガンのリスクが高くなる、果物をほとんど食べないと胃ガンのリスクが高くなる、というエビデンスもいくつか見られました。(World Cancer Research Fund International/American Institute for Cancer Research. Continuous Update Project Report: Diet, Nutrition, Physical Activity and Stomach Cancer. 2016. Available at: wcrf.org/stomach-cancer-2016.)

実践的ガイドライン
世界ガン研究基金・米国ガン研究協会が推奨しているのは、自分の健康範囲内で体重をできるだけ低く保ち、体をよく動かし、高カロリー食品や砂糖分の多い飲料を避け、全粒穀物・野菜・果物・豆類をもっと食べ、赤肉、とくに加工肉の摂取量を制限し(私はゼロにするのが良いと思います)、アルコールはほとんど摂らないようにし、塩分摂取量を減らすことです。こうしたことは私もお勧めしますが、彼らはどうした訳か、サプリメントに頼るまではない、と言っており、詳しい説明もありません。サプリメントが健康的な食事に代わることはできないということは私も認めますが、有益な栄養素を取り損なわないことを確実にするため、サプリメントで効果的に補うこともできます。また、栄養素の中には、効果が得らえるだけの量を摂るのに食事だけでは難しいものもあります。


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黄斑変性症を防ぐルテイン

カロテノイドは、黄色やオレンジ色、赤色の色素群で多くの種類があり、この栄養素は、オレンジ色・黄色・緑色の果物や野菜に含まれています。最も広く知られているのは、おそらくβ-カロテンで、これはニンジン、サツマイモ、冬カボチャ、ホウレンソウその他の葉野菜、およびカンタロープ(赤肉種のマスクメロン)に含まれています。カルテノイド群には、その他、α-カロテン、ルテイン、リコピン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチンなどがあります。α-カロテンとβ-カロテンは、体内でビタミンAに変換することができ、β-クリプトキサンチンも同様です。カロテノイドはすべて、抗酸化特性と非抗酸化特性を有し、健康効果をもたらします。ルテインとゼアキサンチンは、目の網膜と水晶体に見られる唯一のカロテノイドです。

加齢性黄斑変性とは、網膜の最も感度の高い部分(黄斑)における一種の劣化です。黄斑に変性が生じると、視野の真ん中がぼやけて見えるようになります。そうすると、字を読んだり、車を運転したり、毎日の雑事をこなすのが困難になることがあります。また、顔を認識しにくくなることもあります。黄斑変性のリスク因子には、喫煙、高血圧症、高脂肪食、動脈硬化などがあります。紫外線への過度の暴露を防ぐことが、黄斑変性のリスク低減に役立つ可能性があります。

カロテノイドと黄斑変性との関係を調べた研究では、まだ結果に一貫性がありませんが、ルテインとゼアキサンチンに黄斑変性の予防効果があることが示唆されています。新たに行われた前向き研究では、女性63,443人と男性38,603人について、看護師保健調査と医学従事者追跡研究によるデータを評価し、1984年から2010年まで追跡しました。

この調査の開始時点で、被験者は全員、加齢性黄斑変性も、糖尿病も、循環器疾患も、ガンも患らっていませんでした。調査終了までには、この被験者に、中間レベルの加齢性黄斑変性が1,361件、進行した加齢性黄斑変性が1,118件見られました。そこで、ルテインとゼアキサンチンの摂取量に応じて被験者を4等分し、上位1/4のグループと下位1/4のグループで加齢性黄斑変性の発症率を比較したところ、この2つのカロテノイドの摂取量が上位1/4にあったグループは、下位1/4のグループより、進行性加齢性黄斑変性のリスクが41%低くなっていました。その他のカロテノイド類については、25~35%のリスク低下との関連が見られました。中間レベルの加齢性黄斑変性については、カロテノイドによるリスク変化の測定はされていませんでした。(Wu J, et al., Intakes of lutein, zeaxanthin, and other carotenoids and age-related macular degeneration during 2 decades of prospective follow-up. JAMA Ophthalmol. 2015 Dec;133(12):1415-24.)

実践的ガイドライン
色彩に富んだ果物や野菜をいろいろ摂ることの理由が、ここにも一つありました。視力喪失のリスクを下げる効果は、ルテインとゼアキサンチンが最も高かったのですが、他のカロテノイド類にも、視力の保護効果が見られました。ほとんどの場合、加齢性黄斑変性は不可逆性である(元には戻らない)ので、自分の視力を守るために自分ができる第一の手段は予防です。上記のカロテノイドはすべて、サプリメントも市販されているので、最適な食品を選んで食べていないときは利用できます。(ルテインのサプリメントはマリーゴールド由来です。)また、別の一群の研究では、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテン、亜鉛、銅をサプリメントで比較的大量に摂ることによる加齢性黄斑変性の予防効果が示されています。

視力維持に最適な食品には、ホウレンソウ、ブロッコリー、コラードの若葉、ケール、ネクタリン、パパイヤ、ベリー類、オレンジパプリカ、ニンジン、サツマイモ、大豆食品、アボカドなどがあり、また、亜麻の実やクルミ、サケ、イワシなど、オメガ3のオイルを含む食品も最適です。

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ストレスの軽減による心臓リハビリへの効果

冠動脈疾患がある患者さんは、冠動脈バイパス手術歴の有無を問わず、大抵の場合、心臓リハビリテーション・プログラムに参加するよう指導されます。これは主に運動のプログラムですが、食生活の改善も促されることがあり、これを合わせれば非常に有効なプログラムとなり得ます。また、食事と運動の他に、ストレス管理も、こうしたプログラムの効果を高める可能性があります。

標準的なリハビリ・プログラムに、ストレス管理を加える効果を分析した新しい研究があります。この研究では、36~84歳の冠動脈心疾患患者151人を、総合的な心臓リハビリを12週間受けるグループ、もしくは、総合的な心臓リハビリ+ストレス管理トレーニングを12週間受けるグループのいずれかに無作為に分けました。また、リハビリを受ける資格はあったが受けていなかった患者についても、対比サンプルとして調べました。そして、被験者全員の追跡を最長5.3年行い、臨床事象について調べました。

その結果、併用療法を受けたグループのほうが、不安も苦痛も少なく、感じているストレスも少ない状態でした。どちらのグループでも、冠動脈心疾患のバイオマーカー値に有意な改善が見られ、これは両グループ間で比較可能でした。この調査期間中に臨床事象が見られた人数の割合は、リハビリ療法のみのグループでは33%でしたが、併用療法を受けたグループでは18%でした。リハビリ療法もストレス管理療法も全く受けなかったグループにおける臨床事象発生率は47%でした。(Blumenthal JA, et al., Enhancing cardiac rehabilitation with stress management training: a randomized, clinical efficacy trial. Circulation. 2016 Apr 5;133(14):1341-50.) たとえ、患者がストレス管理トレーニングをとくに要求していなくても、いつも心臓リハビリ・プログラムに含めるべきである、とこの論文では結論付けています。

実践的ガイドライン
ストレス管理には、単純な呼吸法から、メディテーション(瞑想)、ビジュアライゼーション法、ヨガ、太極拳、誘導イメージ療法などに至るまで、多くの方法が利用できます。こうした方法は、ある程度時間を要しますが、2~3分の呼吸法やビジュアライゼーション法を1日数回行うだけでも効果が得られることがあります。私はビジュアライゼーション法が好きです。目を閉じて、心の目に映る景色を楽みながら、自分が日常を離れてお気に入りの場所の一つにいると想像することができるからです。

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2016年06月08日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2016年5月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2016年5月号ビタミンCと白内障

今月の話題
◆ビタミンCと白内障
◆食事での果物摂取による心疾患リスクの低下
◆運動が脳や筋肉量にもたらす効果
◆食物繊維の多量摂取による肺機能への効果



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ビタミンCと白内障

ビタミンCは、免疫系を支える抗酸化剤・抗炎症剤として多くの効果をもたらすだけでなく、視力を守るのにも役立ちます。最近行われた研究では、目の水晶体に生じる白内障の予防にも役立つ可能性があることがわかっています。この研究では、複数の遺伝学的研究にもとづき、「白内障リスクの約35%は遺伝的要素を一因とするが、残りの65%は栄養摂取を含む環境要因による」と推定しています。ここでの栄養摂取とは、具体的には、ビタミンCおよび微量元素であるマンガンを食事で摂ることを意味しています。

この研究では、英国内の白人女性の双子2,054人について食事摂取量の計測データを集めました。そして、食品摂取頻度調査票を用いて各自の栄養摂取量を調べ、そのデータを白内障の発症率と比較しました。その後、できるかぎり多くの被験者を平均9.4年間追跡し、追跡期間の終了時点で、そのうち324人に関する白内障の計測データが得られました。

その結果、調査開始時点での核性白内障の発症率、および調査期間中における核性白内障の進行に対して、食事でのビタミンC摂取による効果が見られました。調査開始時点では、ビタミンCの摂取量が最も多かったグループは、その摂取量が最も少なかったグループと比較して、白内障のリスクが19%低くなっており、調査期間中における白内障の進行リスクも33%低くなっていました。マンガンの摂取、および他の微量栄養素のサプリメントによる効果は、調査開始時点でのデータでは見られましたが、調査終了時点でのデータでは、それ以上の効果は見られませんでした。マンガンの摂取量が最も多かったグループでは、調査開始時点での白内障リスクは20%低くなっていましたが、白内障の進行に対する予防効果は見られませんでした。 (Yonova-Doing E, et al., Genetic and dietary factors influencing the progression of nuclear cataract. Ophthalmology. 2016 Mar 15. pii: S0161-6420(16)00114-7. doi: 10.1016/j.ophtha.2016.01.036.)

この研究グループによると、微量栄養素をサプリメントの形で摂ることと、核性白内障の進行には、統計的に有意な関連は見られなかったということです。このことを重要な結論のように見せているニュース記事が少なくとも1つありますが、そのような記事は語弊があります。この論文によると、サプリメントを摂っていると回答した被験者は約10%に過ぎず(これは驚くほど低い数字です)、そのため、「統計的に有意な関連が見られなかった」というのは、サプリメントの有意義な評価を行うのに十分な数の被験者がいなかった、ということに過ぎません。

他の諸研究では、サプリメントの摂取や、血清中の栄養素値が高い状態(これは主にサプリメント摂取者に見られるのが普通)による白内障の予防効果が示されています。(Wei L, et al., Association of vitamin C with the risk of age-related cataract: a meta-analysis. Acta Ophthalmol. 2016 May;94(3):e170-6.) 黄斑変性症、ドライアイ症候群、白内障を含むいくつかの目の病気に対し、様々な栄養素に予防効果があることがわかっています。それらには、ルテイン、ゼアキサンチン、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、銅、オメガ3系脂肪酸(EPA・DHA)などがあります。こうした栄養素の摂取は、「進行した黄斑変性の発生率を下げるための栄養療法として、依然として最も実績がある」と論文執筆者は述べています。(McCusker MM, et al., An eye on nutrition: The role of vitamins, essential fatty acids, and antioxidants in age-related macular degeneration, dry eye syndrome, and cataract. Clin Dermatol. 2016 Mar-Apr;34(2):276-85.)

ただし、ビタミンCのサプリメントに白内障の予防効果があることが、すべての研究で示されているわけではありません。しかし、ビタミンCを追加摂取してもリスクはないため、こうした情報がすべて同じ結果に揃うまで待つ価値はあるのでしょうか?

実践的ガイドライン
多くの理由で、一番良いのは、果物と野菜からビタミンCをたくさん摂ることです。果物や野菜には、ビタミンCだけでなく、多種多様な栄養素、ならびに食物繊維が含まれています。ビタミンCを豊富に含む食品には、たとえば、ピーマン、葉野菜、パパイヤ、ブロッコリー、ベリー類、パイナップル、柑橘類、キウイなどがあります。私は、老化防止、炎症予防、免疫力強化のために、サプリメントの形でもビタミンCをきわめて大量に(通常は1日6,000 mg)摂っています。

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食事での果物摂取による心疾患リスクの低下

果物をたくさん食べることの理由が、早くも、もう一つ見つかりました。新鮮な果物の定期的摂取によって、心臓発作および脳卒中による死亡のリスクが低くなるという関連が、中国での研究で見られています。中国における果物の摂取量は西洋人より少ない状態です。この研究は、2004年から2008年までの間に30~79歳の成人512,891人を募集して約7年間追跡したもので、その追跡人年は320万人年にもなりました。調査の開始時点で循環器疾患の既往歴も高血圧症の治療歴もなかった被験者451,665を対象として調査期間中に記録された各件数は、循環器疾患による死亡が5,173件、主要冠動脈イベントが2,551件、虚血性脳卒中(血栓による脳組織への血流遮断)が14,579件、脳内出血が3,523件でした。

全体的に見て、新鮮な果物を毎日摂っていると回答した被験者は18%に過ぎませんでした。新鮮な果物を全くまたは滅多に食べないグループと比較して、新鮮な果物を毎日摂っているグループのほうが、収縮期血圧(最大血圧)と血糖値が低くなっていました。また、この果物摂取グループのほうが、循環器疾患で死亡する可能性が40%低く、心臓発作などの主要冠動脈イベントを発症する可能性が34%低くなっていました。また、虚血性脳卒中を発症する可能性は25%低く、出血性脳卒中を発症する可能性は36%低くなっていました。調査したどの疾患についても、果物の摂取量が多いほど予防効果の量が多くなるという正比例の関係が見られました。

血糖値が低いほど、また、血圧値が低いほど、循環器疾患のリスク因子は少なくなりますが、こうしたリスク因子は、上記の特定イベントのリスク低下にはほとんど関係しておらず、他の食事関連・非食事関連のリスク因子も同様でした。これは、果物摂取による別の何らかの効果が働いていることを示しています。(Du H, et al., Fresh fruit consumption and major cardiovascular disease in China.N Engl J Med. 2016 Apr 7;374(14):1332-43.)

実践的ガイドライン
大病を予防するための食事を考える場合、果物は重要な構成要素となります。果物には、食物繊維、ビタミン、ミネラル、その他のフィトケミカルが豊富に含まれています。果物はその水分さえ貴重であり、1日に必要な水分を摂るのに役立ちます。私は普段、スイカ、パパイヤ、バナナ、パイナップル、マンゴー、カンタロープ(赤肉種のマスクメロン)、リンゴ、西洋ナシ、モモ、ネクタリン、そしてとくにベリー類などの果物を、1日4~6皿(またはそれ以上)食べています。ブルーベリー、イチゴ、ラズベリーは大好物ですが、従来品は農薬で汚染されている傾向があるため、新鮮なオーガニックのものが入手できない時期は、通常、冷凍ものを買わないと、オーガニックのものが手に入りません。

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運動が脳や筋肉量にもたらす効果

筋肉の質を評価する場合、研究者は機能している運動単位の数と、神経筋伝達の安定性を調べます。人は加齢に伴って運動単位数が減少し、一般的に70~80歳代で、その急激な低下が見られます。カナダのある研究グループは、以前、65歳のマスターズ(中高年クラス)・ランナーについて、年齢適合対照群と比較して運動単位数が多いという研究結果を示しました。このグループは、その後の試みとして、80歳前後のマスターズ・アスリートにおける運動単位数および運動単位の安定性を調べ、マスターズ・アスリートではないが健康である年齢適合対照群と比較しました。その研究では、前脛骨筋(下腿部の前面にあり、膝方向に足を上げられるようにする筋肉)を用いて、筋肉量、筋力、および神経筋伝達の安定性を評価しました。

マスターズ・アスリートのグループでは、対照群と比較して、活動筋量が14%多く、機能している運動単位数も28%高くなっていました。神経筋伝達の安定性も、対照群より高い状態でした(何とこれは、「ジッター」値と「ジグル」値が対照群より低いことからわかりました)。こうした結果はすべて、80歳代になっても定期的に運動していると筋肉量の維持に役立ち、細胞レベルで筋肉が若く保たれることを示しています。(Power GA, et al., Motor unit number and transmission stability in octogenarian world class athletes: can age- related deficits be outrun? J Appl Physiol (1985). 2016 Mar 24:jap.00149.2016. doi: 10.1152/japplphysiol.00149.2016. [印刷物に先行した電子出版])

年齢を問わず、運動することの価値はいくら強調してもし過ぎることはありません。老齢になると、日常的な生活活動や余暇活動に役立てるため、機能を維持することがさらにいっそう重要になります。バランス能力を維持して転倒を防ぐことも同様に重要となります。また、加齢に伴って精神機能を維持するためにも運動が有用であることが、別の研究で示されています。運動は、集中力と焦点調節力を高めることにより、転倒の予防にも役立ちます。また、余暇身体活動には、認知症を防ぐ効果があります。

北マンハッタン研究(マンハッタン北部の住民を対象としたコホート研究)の一環として、ある研究グループは1,288人を対象として、まず調査開始時に、被験者の余暇身体活動について調べ、標準的な神経心理学的検査を用いて認知機能を評価しました。この神経心理学的検査は、その後5年間繰り返されました。余暇身体活動のレベルは、皆無~軽度と、中程度~強度の2つに分類され、精神機能のサブカテゴリーには、処理速度、意味(単語)記憶、エピソード記憶、実行機能が含まれました。

この調査の開始時点では、身体活動が皆無~軽度であったグループのほうが、実行機能・意味記憶・処理速度の数値が低い状態でした。しかし、この研究グループは、血管リスク因子における違いがこうした差をもたらした可能性がある、と述べています(もちろん運動不足による影響もあると考えられます)。身体活動が中程度~強度であったグループのほうが、その後5年間ずっと、処理速度およびエピソード記憶という面で、認知機能が高く維持されていました。こうした効果が最も顕著に見られたのは、調査開始時点で正常な状態であったグループでした。これは、運動を早く始めるほど、最大の効果が得られる可能性が高くなることを示唆しています。認知低下が始まるまで運動を始めずにいると、かなり不利になります。

上記の研究論文によると、身体活動が皆無~軽度であったグループは、中程度~強度であったグループに比べて、認知低下(脳老化)が10年早くなることがわかったということです。 (Willey JZ, et al., Leisure-time physical activity associates with cognitive decline: The Northern Manhattan Study. Neurology. 2016 Mar 23. pii: 10.1212/WNL.0000000000002582. [印刷物に先行した電子出版])

実践的ガイドライン
健康のための活動として、定期的に運動することが最も重要と考えられます。ウォーキングやサイクリング、テニスなどのラケットスポーツ(私は今ピックルボールが気に入ってます)、水泳、ダンス、エアロバイク、ボート漕ぎ、ジムのステア・マシン(階段昇降マシン)やエリプティカル・マシン(ペダルを踏むと足が楕円形を描くようになっているマシン)を使った運動を組み合わせて行うことをお勧めします。ちょっとした筋力トレーニングでも良く、これはたくさんしなくても、やる価値はあります。運動は、多くできるほど良いのですが、定期的にすることが重要です。筋力トレーニングについては、「スマートジム」という家庭用ジム用品がとくに優れているとわかりました(www.smartgym.com)。これは、家庭でもほとんど場所をとらず、かなり安価で、様々な筋力トレーニングが可能です。私は夏に旅行すると、どこでもウォーキングするし、運動用のゴムバンドもいくつか持ち歩きます。(インターネットなら多くが10ドル程度で売られており、私は5種類の負荷抵抗のゴムバンドが入ったFlexActiveセットを使っています。全部袋に入れてもこぶし大なので旅行に最適です。)

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食物繊維の多量摂取による肺機能への効果

食物繊維は、食品の消化されない部分であり、ほとんどそのままの形で腸管を通過します(一部は下部結腸で微生物によって発酵されます)。とはいえ、食物繊維は決して、取るに足らないものではありません。これは、腸機能を助け、結腸をきれいにし、毒素を吸収し、また、満腹感を覚えさせて食欲を抑制するのに役立ちます。食物繊維を多く含む食事には、多くの疾患のリスク低下との関連が見られており、こうした効果は、食物繊維そのものに関係している部分もあれば、食物繊維を多く含む食品に見られるその他の数多くの栄養素に関係している部分もあると思われます。食物繊維を多く含む食品には、全粒穀物、豆類、野菜、果物、種子類(ゴマや、ヒマワリの種、カボチャの種など)があります。

全米健康栄養調査の一環として収集された情報には、食事での摂取量、および肺機能を示す肺活量測定値のデータも含まれていました。ある研究グループが、肺活量の測定値と食物繊維の摂取量のデータが両方とも入手可能であった参加者1,921人について評価を行いました。肺機能検査の1つは強制呼気容量1(FEV1)と呼ばれるもので、呼気開始から1秒間に強制的に吐き出すことができる空気の合計量を調べます。もう1つの検査は強制肺活量(FVC)と呼ばれるもので、息を1回完全に吐き出して強制的に出すことができる空気の合計量を調べます。

食物繊維の摂取量が最も多かったグループでは、その摂取量が最も少なかったグループと比較して、強制呼気容量1の値が82 mL高く、強制肺活量の値も129 mL高くなっていました。強制肺活量については、過去に、長寿の予測に関連付けられています(肺機能が高いほど寿命が長くなると予測されました)。全体的な分析では、食物繊維の摂取量が多いほうが、肺機能が正常である人の割合が高くなり、気流制限がある被験者の割合が有意に低くなるという関連が見られました。(Hanson C, et al., The relationship between dietary fiber intake and lung function in NHANES. Ann Am Thorac Soc. 2016 Jan 19. [印刷物に先行した電子出版])


実践的ガイドライン
西洋式の食事に含まれる一般的な食物繊維量は10~15 gです。ガイドラインでは、1日当たり25 gの食物繊維を摂る努力をするよう推奨されています。1950年代にデニス・バーキットが調査した現地アフリカ人の食事には、約100 gの食物繊維が含まれていました(現地アフリカ人は、きわめて運動量の多い生活をしていたため、当然、大量の食料を食べていました)。その主食はジャガイモ、バナナ、コーンミール、豆類で、これはどれも食物繊維を多く含んでいます。動物性食品には食物繊維は含まれていないため、私は1975年以来、獣肉も鳥肉も食べていません。オーガニックの無脂肪ヨーグルトを食べるときは、バナナやベリー類(ブルーベリー、ラズベリー、イチゴ)を入れて、食物繊維不足を補います。クルミやアーモンドもよく入れます。食物繊維が多い食品には、他にも数多くの栄養素が含まれており、そうした栄養素が、ここで見られた健康効果の全部または一部に寄与していると考えられます。

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2016年04月13日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2016年3&4月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2016年3&4月号レスベラトロールがアルツハイマー病にもたらす効果

今月の話題
◆レスベラトロールがアルツハイマー病にもたらす効果
◆亜鉛と妊娠転帰
◆血中脂質と動脈壁硬化との関係
◆健康的な脂質摂取が寿命が延ばす可能性
◆ビタミンEは細胞の老化を減らす

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レスベラトロールがアルツハイマー病にもたらす効果

レスベラトロールはポリフェノールの一種で、赤や紫のブドウ(ほとんど皮の部分)、クランベリー、ブルーベリー、ピーナッツに含まれ、最も良く知られている摂取源は赤ワインです。グラス1杯のワインに、約200~2,000μg、つまり0.2~2.0mgのレスベラトロールが含まれると考えられます。ピーナッツバター1g当たりの含有量は約5μgで、大さじ1杯が約16g(約105カロリー)のため、大さじ2杯で約160μgのレズベラトロールが得られます。

新しい情報によると、レスベラトロールはアルツハイマー病患者に役立つ可能性があります。ある無作為化二重盲検プラセボ比較で、軽度から中程度のアルツハイマー病患者119人を被験者とし、その半分に、レスベラトロール500mgを1日1回経口投与し、その投与量を13週ごとに500mgずつ増やしました。この試験は52週間続けられ、レスベラトロールとその主要代謝産物の数値は、血液および脳脊髄液から測定できました。

この研究では、血漿中および脳脊髄液中のアミロイドβ40値を測定しました。アルツハイマー型認知症が進行すると、血漿と脳脊髄液のいずれにおいてもアミロイドβ40が減少します。研究グループは、脳の容積を調べるためにMRI検査も行いました。一部の患者には吐き気や下痢が見られましたが、レスベラトロールは安全で耐容性は概して良好でした。

52週の試験終了時点で、アミロイドβ40は、血漿中・脊髄液中のいずれの値も、レスベラトロールを与えたグループより、プラセボグループのほうが低下していました。この研究グループによると、レスベラトロールのグループは、プラセボグループより脳容積の減少率が高かったということです。脳容積が減少した理由として、研究グループは、こうした処置(レスベラトロールの投与)によって炎症の減少が誘発された可能性がある、と推測しています。(Turner RS, et al., A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of resveratrol for Alzheimer disease. Neurology. 2015 Oct 20;85(16):1383-91.)

実践的ガイドライン

参考までに、上記の研究で用いられたレスベラトロールの量は、赤ワインに換算するとグラス1,000杯に含まれる量に相当します。よって、食事で摂るレベルには関係ありません。しかし、アルツハイマー病のような深刻な疾患に対処する場合は、食品から摂取できる量より多い量を、安全であるかぎり試してみる価値はあります。市販のサプリメントは、レスベラトロールの含有量が30mgから250mgのものまであります。


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亜鉛と妊婦転帰

亜鉛は、食事で必要とされる微量ミネラルであり、最大300もの酵素系における補因子です。出生前も、出生後も、発育と発達に必要とされ、免疫機能、傷の治癒、抗酸化活性にも不可欠です。亜鉛は前立腺機能、生殖器官の発達、および脳機能における重要な栄養素であり、AREDS(加齢性眼疾患研究)では、網膜の健康維持にも重要であることがわかっています。亜鉛の欠乏には、大うつ病性障害との関連が見られています。

中国で最近行われた研究で、十分な亜鉛摂取が健康的な妊娠転帰にとって重要であることが示されています。この研究は、3,081人の母親の出産記録を調べたもので、この被験者は、亜鉛値を調べるために分析された血清サンプルを含む詳しい出産記録がある人々でした。この被験者グループでは、169件の早期産が確認されました。被験者は血清中の亜鉛値にもとづいて3等分され、「低」(76.7μg/dL未満)、「中」(76.7~99.6μg/dL)、「高」(99.7μg/dL以上)のグループに分かれました。

早期産の発生率は、亜鉛値が「低」のグループで7.3%、「中」のグループで6.0%であり、「高」のグループでは3%程度に過ぎませんでした。(Wang H, et al., Maternal serum zinc concentration during pregnancy is inversely associated with risk of preterm birth in a Chinese population. J Nutr. 2016 Jan 27. pii: jn220632. [印刷物に先行した電子出版]) この結果から、健康的な妊娠のためには幅広い栄養摂取が重要であることがわかります。この研究で、十分な亜鉛値による効果が最も高かった時期は、妊娠の第一期でした。

実践的ガイドライン

食事では、獣肉や貝類・甲殻類などから亜鉛を摂ることができますが、全粒穀物、パンプキンシード(カボチャの種)、ゴマ、豆類、ナッツ類(アーモンドなど)から摂るほうが健康的です。ほとんどのマルチビタミンサプリメントには、大抵の場合十分とされる基本的な量の亜鉛が含まれており、ビジョンフォーミュラ(目の健康のためのサプリメント)には、常にそうした量が含まれています。亜鉛を高用量で長期間摂ると、銅の欠乏を引き起こす可能性があります。亜鉛トローチは、喉の痛みや風邪に役立つことがあります。


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血中脂質と動脈壁硬化との関係

多価不飽和脂肪酸は、コーン油、大豆油、サフラワー油、キャノーラ油、ピーナッツ油などの植物油に見られ、こうした油には主にオメガ6脂肪酸が含まれています。これは冷蔵庫の中でも液体のままであり、(室温でも)固まる飽和脂肪のように凝固することはありません。冷たい水の中で生きている魚は、柔軟性を保ったまま泳ぎ回ることができるよう、自己の組織内に他より多くの多価不飽和脂肪が必要なのです。人の健康に最も重要な多価不飽和脂肪はオメガ3の油であり、これは、抗炎症作用、血小板の粘性の抑制、循環器疾患のリスク低下、うっ血性心不全への効果、血圧とトリグリセリドの低下、喘息への効果など、数多くの生理学的効果をもたらします。

動脈壁は、内皮細胞、筋肉、エラスチンおよびコラーゲンで構成され、通常はとても柔軟ですが、加齢とともに硬くなりやすく、とくに、高血圧や炎症によるストレスを受けると硬くなりがちです。動脈壁の硬化は、循環器疾患リスクの指標となります。動脈が硬くなると、心臓は血液を送り出すのにもっと働かなければなりません。硬化の指標として、脈波伝播速度、ならびに収縮期血圧と拡張期血圧との差が用いられます。脈波伝播速度が遅いほど、動脈が柔軟であるとみなされます。

ある新しい研究では、血清中のオメガ3系脂肪酸の値が高いほど脈波伝播速度が遅いという結果が示されています。この研究は、アイスランドの集団ベース研究におけるサブグループからデータを集めたもので、被験者は70~80歳の成人501人、そのうち46%が男性でした。研究では、試験開始時点での血漿中の各脂肪酸値を調べ、また、魚油の摂取について、有効性が確認されている食品摂取頻度調査票を用いることにより、若年期(14~19歳)、中年期(40~50歳)、老年期(66~96歳)という3種類の時点での摂取量を推定しました。測定されたオメガ3系脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)であり、被験者の追跡期間は平均5.2年でした。

結果として、血漿中のオメガ3系脂肪酸の値が高いほど、脈波伝播速度が遅いという関連が見られ、2つのオメガ3系脂肪酸を合わせた場合やDHAのみの場合と比較して、EPAのほうがその関連性が強く見られました。一方、オメガ6系脂肪酸については(その多くは高度に加工された食品から摂取したもの)、血漿中の値が高いほど、動脈壁硬化のリスクが高くなっていました。オメガ3系脂肪酸(α-リノレン酸)は、魚の他に、亜麻の実、クルミ、大豆、チアシードにも含まれています。ただし、これらにはオメガ6系脂肪酸も含まれています。オメガ6は必須脂肪酸ですが、西洋式の食事の場合、工場で生産される食品に使われる高度に加工された油から過剰摂取されていることが多いのです。前号のニュースレターにも書いたとおり、α-リノレン酸は酵素によってEPAとDHAに変換されなければならないのですが、加齢や疾患によってこのプロセスが制限されることがあります。

調査票から推定した各世代区分(若年期・中年期・老年期)における魚油の摂取量に関しては、血漿値とは異なり、動脈壁硬化の測定値と何の関連も見られませんでした。これは、被験者が食事での摂取量を十分に思い出すことができなかったためかもしれません。(Reinders I, et al., Higher plasma phospholipid n-3 PUFAs, but lower n-6 PUFAs, Are associated with lower pulse wave velocity among older adults. J Nutr. 2015 Oct;145(10):2317-24.)


実践的ガイドライン

天然のサケやイワシなど、脂の多い魚を摂れば、オメガ3の油がかなり得られる可能性があります。市販のサプリメントには、EPAとDHAを様々に組み合せたものあります。ベジタリアンの場合は、亜麻の実とチアシードが、おそらく最も豊富にオメガ3の油を含む摂取源となります。私はよく、オーガニックの亜麻仁油をサラダドレッシングに使ったり、ベークドポテトにかけたり、蕎麦に少し垂らしたりしています。また、1カプセル当たり600mgのEPA/DHAが入っている魚油のサプリメントを1日に2カプセル摂っています。


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健康的な脂肪摂取が寿命を延ばす可能性

脂肪の摂取は、健康と長寿に実際に影響します。うまく選ばないと、心疾患(冠動脈性心疾患)のリスク増加につながるおそれがあります。これはもはや、西洋式と言われる食事に限った問題ではありません。西洋式の食事に見られる類の高度に加工された食品やファストフードが、今ではほとんど世界中に広まっているからです。タフツ大学フリードマン栄養科学政策校の研究グループによる新しい研究では、多価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸およびトランス脂肪酸の各摂取量と、冠動脈性心疾患による死亡リスクとの相関が明らかになっています。

この研究グループは、各国ごとの食事調査結果、食品可用性のデータ、およびトランス脂肪酸については油脂と加工食品に関する産業レポートを使用し、複数の前向き研究のメタ分析から導き出された冠動脈性心疾患死亡率ならびに2010年の「疾病による負担の国際調査」から導き出された死亡率に対して、上記の各脂肪がもたらす潜在的な影響を調べました。こうした情報により、研究グループは、冠動脈性心疾患による死亡件数について、オメガ6多価不飽和脂肪酸の摂取量が適正でない状態(過剰もしくは過小の意味であるが、主に過小摂取)が年間711,800件の増加に関連していると推定しました。飽和脂肪酸の摂取量が適正でない状態(この場合は必須脂肪酸ではないため過剰摂取)は年間250,000件の増加、トランス脂肪酸の過剰摂取は年間537,200件の増加に関連していました。(Wang Q, ET AL., Impact of nonoptimal intakes of saturated, polyunsaturated, and trans fat on global burdens of coronary heart disease. J Am Heart Assoc. 2016 Jan 20;5(1).)

分析を行った20年間で、多価不飽和脂肪酸の過小摂取による死亡件数は9%減り、一方、飽和脂肪酸の過剰摂取による死亡件数は21%減りました(過小であった多価不飽和脂肪酸の摂取量が増え、過剰であった飽和脂肪酸の摂取量が減ったことを反映しています)。しかし、トランス脂肪酸による死亡件数については、低所得国と中所得国で増加したことを受けて、4%増加しました。トランス脂肪酸は、天然に存在することはほとんどない(加工時に不飽和脂肪を人工的に飽和脂肪にする(水素添加する)ことによって生じる)ため、この結果は、加工食品がどんどん蔓延していることを示しています。

健康的な食事とは、本来、あらゆる脂肪類、とくに飽和脂肪の量がきわめて少ないものです。デニス・バーキット博士が1950年代に現地アフリカ人の食事を調べたとき、心疾患も、脳卒中も、高血圧症も、結腸ガンも、糖尿病も、ほとんどないことがわかりました。現地アフリカ人の食事は、ジャガイモ、バナナ、コーンミールおよび豆類を主食とし、脂肪はほとんど摂っていませんでした。博士は、彼らが健康である理由を、食事に食物繊維が多く含まれているためと考えましたが、こうした食事のメリットはそれだけではありません。


実践的ガイドライン

私はすべての油を避けているわけではなく、亜麻仁油とオリーブオイルを食事に取り入れています。ただ、これは、私が選ぶようにしているホールフードではなく、抽出された食品であるため、過度には使いません。調理には少量のオリーブオイルを使い、亜麻仁油はサラダドレッシングに使うことをお勧めします(亜麻仁油は栄養成分が非常に壊れやすいため、決して調理すべきではありません)。また、私はココナッツを食べるし、焼き物にココナッツオイルを多少使いますが、それは自分の食事のごく一部に過ぎません。全粒穀物と豆類には、必須脂肪酸である多価不飽和脂肪酸が多少含まれており、私は、クルミ、アーモンド、カシューナッツ、ゴマ、ヒマワリの種も食事に取り入れています。これらはすべて、多価不飽和脂肪酸を豊富に含んでいます。健康に良い食事選択をしていれば、どんな油であれ、健康のために追加する必要はありませんが、調理や食味のために油を多少入れたい人もいるかもれません。健康的な食事では、通常、全カロリーの15~20%を脂肪から摂り、10~20%をタンパク質から摂ります。残りのほとんどは、複合炭水化物から摂ります(ただし、砂糖や精白小麦粉などの単純炭水化物からはほとんど摂りません)。複合炭水化物には、全粒穀物、豆類、野菜、ジャガイモ、サツマイモ、根菜類などがあります。私はその他にも果物をたくさん食べてフィトケミカルと食物繊維を摂るようにしていますが、自分が食べる食品はどれも、主に趣味で選んでいます。

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ビタミンEは細胞の老化を減らす

ビタミンEは、酸化ストレスによって誘発される細胞損傷を低減する抗酸化物質として重要です。こうした酸化損傷は、老化の進行の一因となります。老化の臨床研究は、必要となる期間があまりにも長すぎ、また、きわめて費用がかかるので実施が困難です。そのため我々は、他の研究から得られた情報にもとづいて推定する必要があります。ある研究グループは、培養した内皮細胞と線維芽細胞を用いて、様々な期間にわたって様々な濃度のビタミンEで処理する試験を行いました。

この研究では、化学的検査や染色剤など、いくつかの方法を用いて、加齢細胞の数を評価しました。ビタミンEによる処理は、短期でも長期でも、加齢(老化)細胞の数に減少をもたらしました。ビタミンEの処理時間が長いほうが、短期の処理の場合より、有意に高い老化減少効果が見られました。この情報は、ビタミンEを用いた長期の処置によって老化のプロセスが遅くなる可能性を強く示唆するものであり、これは、抗酸化物質に関する他のいくつかの研究結果とも一致しています。(La Fata G, et al., Vitamin E supplementation delays cellular senescence in vitro. Biomed Res Int. 2015;2015:563247. doi: 10.1155/2015/ 563247. Epub 2015 Nov 3.)


実践的ガイドライン

食事において、ビタミンEは、ヒマワリの種やアーモンド、ホウレンソウ、スイスチャード、アボガド、ピーナッツなどに少量含まれています。しかし、臨床研究で使われているほどの量を摂るのは困難です。ビタミンEを1日200~2,000 IU摂ると、アルツハイマー病、パーキンソン病、関節リウマチ、跛行(運動時の足の痛み)、心疾患および免疫機能に効果があることがわかっています。上記の研究では合成型のビタミンE(dl-αトコフェロール)が使われましたが、私が勧めているのは、それより効果が高い天然型のビタミンE(dl-ではなくd-αトコフェロール)、ならびにβ、γ、δという他の形態のビタミンE、とくにγ-トコフェロールです。私が摂っているカプセル(1錠)は、γ-トコフェロールを多く(750mg)含むもので、それに加えてd-αトコフェロールが200 IU、βとδの混合トコフェロールが290 mg入っています。


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2016年03月09日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2016年2月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2016年2月号必須脂肪酸とGLA

今月の話題
◆必須脂肪酸とGLA
◆アトピー性皮膚炎に役立つGLA
◆EPA・DHAとGLAがにきび患者にもたらす効果
◆ドライアイ症候群に対するEPA・DHAとGLAの効果
◆背痛と神経障害に対するGLA+ALAの効果
◆葉野菜は緑内障のリスクを下げる






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必須脂肪酸とGLA

食事性脂肪には、飽和脂肪と不飽和脂肪があります。不飽和脂肪は概して液状(油)であり、飽和脂肪は固形です。一価不飽和脂肪(オリーブオイルなど)は、保管温度によって液状の場合も固形の場合もあります。人工的に飽和させた脂肪(半硬化植物油)には、自然に発生することのない「トランス」脂肪という有害物質が含まれています。

一部の脂肪は、健康に不可欠でありながら体内では作られないため、食事で摂る必要があります。そうした脂肪は、髪や皮膚の生育を促し、骨の健康維持に重要であり、代謝をコントロールし、生殖機能を支えます。ほとんどの人は脂肪の摂り過ぎですが、カロリーの過剰摂取による健康リスクに加え、残念なことに、こうした脂肪は高度に加工されていて十分な量の必須脂肪酸が含まれていないことが多いのです。

食事性の必須脂肪には、オメガ3とオメガ6と呼ばれるものがあり、これは多価不飽和脂肪酸(PUFA)としても知られています。亜麻の実、クルミ、大豆には、オメガ3の油である「α-リノレン酸」(ALA)が豊富に含まれています。ALAは、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の前駆体です。EPAとDHAは、イワシやサケなど、脂分の多い魚に自然に含まれていますが、人間の体内でも、酵素が活発に働いていればALAから作られます。こうしたオメガ3の副生成物は、炎症の軽減をもたらす可能性があります。

オメガ6脂肪酸(シス-リノレン酸、cLA)は、トウモロコシや大豆のほか、多くのナッツ類と種子類(亜麻、ヒマワリ、ゴマの実など)に含まれています。この場合も、市販の油の多くは高度に加工されていて、栄養価が低下しています。cLAは、体内でγ-リノレン酸(GLA)に変換されます。この変換プロセスは、(EPAやDHAの変換と同じく)酵素の状態に左右されますが、酵素の活性は、加齢や疾患、栄養欠乏などの状態によって低下することがあります。そうすると、上記の物質(EPA、DHA、GLA)はすべて生成量が低下し、こうした物質によって作られる調節分子の生成量も低下します。

GLAは、抗炎症作用のあるプロスタグランジン(PGE1など)の前駆体であり、そのサプリメント摂取による特定の効果を示した以前の研究結果のいくつかが、最近行われた研究で裏付けられました。GLAは、月見草オイル、ボラージシードオイル、ブラックカラントシードオイルに含まれています。こうしたオイルはすべて、サプリメントとして入手でき、慢性炎症、湿疹、ドライアイ症候群、喘息、糖尿病および関節炎の治療と予防に役立つ可能性があります。慢性炎症そのものは、アテローム性動脈硬化症、認知症、糖尿病、パーキンソン病、ガンなどの疾患を引き起こす一因となる疑いがあります。

GLAサプリメントの抗炎症作用は、関節リウマチ、乾癬および湿疹の予防と治療に役立ちます。また、関連効果として、血管を拡張して、血行を良くし、血小板の粘着を減らすのに役立ちます(そのためにアスピリンなどの薬を使っている人もいます)。GLAはまた、糖尿病患者の神経伝導に改善をもたらし、感覚異常(しびれやうずき)を軽減する可能性もあります。(Kapoor R, Huang YS, Gamma linolenic acid: an antiinflammatory omega-6 fatty acid. Curr Pharm Biotechnol. 2006 Dec;7(6):531-4.) GLAのサプリメントが喘息と関節リウマチにもたらす効果については、以前の研究ですでに示されています。

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アトピー性皮膚炎に役立つGLA

月見草オイルのサプリメントでは、500 mgのカプセル1個に約40 mgのGLAが含まれています。アトピー性皮膚炎(別名イクジーマ)に関するある研究では、21人の被験者に対し、4,000~6,000 mgの月見草オイルという形で320~480 mg のGLAを与える処置を12週間続けました。被験者の症状の評価は、試験の開始時点、ならびに4週後と12週後の時点で、SCORADと呼ばれる評価スケールを用いて行われました。また、この研究では、GLAと、その代謝産物の一つであるDGLAの血漿中濃度も測定しました。

4週後と12週後のいずれの時点でも、血漿中のGLA値とDGLA値が増えていました。この2つの値は、症状スコアの有意な低下と相関していました。対照グループがなかったため、これは試験的研究に過ぎませんでしたが、以前に発見されたものとよく似た結果が得られました(それを初めて知ったのは1982年でした)。しかし、すべての研究がこうした結果を裏付けているわけではありません。GLAに対する反応が人によって異なるとも考えられ、これは各研究結果にばらつきがあることの説明となります。皮膚細胞を含め、細胞膜の健康維持には必須脂肪酸が必要です。(Simon D, et al., Gamma-linolenic acid levels correlate with clinical efficacy of evening primrose oil in patients with atopic dermatitis. Adv Ther. 2014 Feb;31(2):180-8.)

実践的ガイドライン

GLAのサプリメントは、何由来であれ有益であり、とくに、種々の慢性疾患がある人に役立ちます。必須脂肪酸が欠乏していると、アトピー性皮膚炎の症状を繰り返します。私は、1日当たり240~360 mgのGLAを摂るよう勧めており、これはボラージオイルのサプリメントから摂るのが最も一般的です。ボラージオイルは月見草オイルよりGLAを高濃度で含んでいるため、月見草オイルのサプリメント6カプセル分の量を1カプセルで摂ることができます。

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EPA・DHAとGLAがにきび患者にもたらす効果

韓国の研究グループが立案した研究で、EPAとDHAという組み合わせやGLAがにきび治療にもたらす効果を調べたものがあります。この研究では、軽度~中程度の尋常性座瘡(にきび)がある患者45人を、オメガ3脂肪酸(EPAとDHAの組み合わせ2,000 mg)を摂るグループ、γ-リノレン酸(GLA)(400 mgのGLAを含むボラージオイル)を摂るグループ、もしくは対照グループのいずれかに無作為に分け、10週間追跡しました。

10週後の時点で、EPA・DHAのグループとGLAのグループの両方で、炎症性ならびに非炎症性のにきび病変に有意な減少が見られました。患者自身による改善評価でも、対照グループとの比較で、類似した結果が見られました。こうした主観的評価だけでなく、細胞染色による組織検査でも、炎症の軽減ならびに炎症性化学物質の減少が見られました。どの被験者にも副作用は見られませんでした。(Jung JY, et al., Effect of dietary supplementation with omega-3 fatty acid and gamma-linolenic acid on acne vulgaris: a randomised, double-blind, controlled trial. Acta Derm Venereol. 2014 Sep;94(5):521-5.)

実践的ガイドライン

炎症性疾患には、GLAならびにEPA・DHAを、一般的に上記の用量で摂ると役立つと思われます。動物性食品を摂りたくない人は、亜麻仁油やクルミからもオメガ3の油を多少は摂ることができますが、EPA・DHAへの変換が十分になされず望ましい効果が得られない場合もあるのでご注意ください。にきびは、とくに若者には悩ましいものですが、大抵の場合、不十分な栄養摂取が一因となっています。1999年に初めて日本を訪れたとき、にきびやにきび痕がある人をほとんど見かけませんでした。その後の訪日時、とくにその10年後の最終訪日時には、ファストフードチェーンの劇的な拡大とともに、にきび率の増加を目の当たりにしました。

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ドライアイ症候群に対するEPA・DHAとGLAの効果

GLAにEPAとDHAを組み合わせた別の研究で、ドライアイ症候群(乾性角結膜炎)である閉経後の患者への効果を示したものがあります。ドライアイは、加齢や、一部の炎症性自己免疫状態によっても見られます。この研究では、導涙機能障害がある患者38人を、GLAとEPA・DHAの組み合わせを与えるグループ(サプリメントグループ)と、プラセボを与えるグループのいずれかに無作為に分け、6カ月追跡しました。試験の開始時における被験者の評価では、眼表面疾患指数(OSDI)、(涙の生成量を調べる)シルマー検査、角膜の平滑度検査など、いくつかの検査を行いました。そして4週後、12週後、24週後に再評価を行いました。

24週後の時点で、サプリメントグループには、眼表面疾患指数のスコアに改善(低下)が見られ、プラセボグループのスコアが34であったのに対し、21となっていました。また、表面の非対称性指数も、サプリメントグループのほうが有意に低くなっていました(0.37対0.51)。いずれの処置によっても、涙の生成量と、角膜・結膜の染色検査結果に対する影響は見られませんでした。(Sheppard JD Jr, et al., Long-term supplementation with n-6 and n-3 PUFAs improves moderate-to-severe keratoconjunctivitis sicca: a randomized double-blind clinical trial. Cornea. 2013 Oct;32(10):1297-304.)

実践的ガイドライン

ドライアイは、自己免疫疾患であるシェーグレン症候群という病気に見られるものですが、独立した問題としても見られます。上記の必須脂肪酸のサプリメントは、その抗炎症作用によって症状軽減に役立つことがあります。GLAは、プロスタグランジンに作用することから、免疫機能にも役立ちます。繰り返しになりますが、GLAの通常用量は1日当たり240~360 mgで、オメガ3脂肪酸の一般的な用量は1日1,000~2,000 mgです。

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背痛と神経障害に対するGLA+ALAの効果

椎間板が壊れて脊髄神経が圧迫されると、背痛や神経障害を生じることがあります。突発的な事故の後に、炎症が慢性症候群に至り、障害を引き起こすこともあります。ある研究で、203人の患者について、その全員に身体のリハビリテーションプログラムを施し、半数の人にはそれに加えて600 mgのα-リノレン酸(ALA)と360 mgのγ-リノレン酸(GLA)を経口投与する試験が行われました。被験者の評価は、試験の開始時、ならびに2週後、4週後、6週後の時点で行われました。

評価にあたっては、腰痛障害調査表、アバディーン腰痛スケール、生活の質に関する調査表(SF36)、その他の障害調査票が用いられました。また、被験者の感覚異常(しびれとうずき)、刺痛、灼熱痛のレベル評価もなされました。試験の終了時点では、特定の測定尺度についてだけでなく、症状にも有意な改善が見られました。リハビリテーションプログラムのみの場合よりも、GLA+ALAの投与を組み合わせた療法のほうが、有意な差をもって良い結果をもたらしました。(Ranieri M, et al., The use of alpha-lipoic acid (ALA), gamma linolenic acid (GLA) and rehabilitation in the treatment of back pain: effect on health-related quality of life. Int J Immunopathol Pharmacol. 2009 Jul-Sep;22(3 Suppl):45-50.)

実践的ガイドライン

α-リポ酸は、糖尿病性末梢神経障害に役立つことがわかっており、その場合の用量は通常、1日当たり1,000~1,200 mgです。その療法にGLAを加えれば、神経伝達速度を改善し、抗炎症物質として作用することにより、役立つ可能性があります。GLAの通常用量は1日当たり240~480 mgです。

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葉野菜は緑内障のリスクを下げる

あらゆる野菜をたくさん食べることは、とても健康に良く、新しいエビデンスによると、食事で葉野菜を多く摂ると、他の効果に加えて、緑内障のリスク低下をもたらす可能性があります。緑内障は、目の中の圧力が高い状態であり、視神経の損傷や視力の喪失、とくに周辺視野の欠損につながります。これは一般に、加齢に伴って見られますが、初期の段階では無症状のため、視力の喪失が生じる前に早期発見するためには、定期的に目の検査を受け、眼圧を調べてもらう必要があります。治療では通常、目薬という形で薬剤の局所投与を行いますが、この薬剤は副作用をもたらすことがあります。他の多くの病気と同様、予防のほうが望ましいのです。

一酸化窒素は、血液内および組織内にある化学物質で、血管の弛緩を助けます。これは、動脈の内側を覆う内皮細胞によって、硝酸塩から産生されます。一酸化窒素は、網膜血管を弛緩させるだけでなく、目の中の液体の流出にも影響を及ぼして内圧を下げる効果があるようです。食事から摂る硝酸塩は、組織内でこうした弛緩因子を増やす助けとなり得ます。葉野菜は、食事性の硝酸塩の摂取源となります。

この新しい研究は、看護師保健調査から得られた女性63,893人のデータと、医療従事者追跡研究から得られた男性41,094人のデータを調べたものです。研究の対象者は、調査の開始時点で40歳以上で緑内障のなかった人々で、2年ごとに評価を行い、26~28年間追跡しました。食事に関する情報は、有効な調査票に基づくものでした。

主に葉野菜による硝酸塩の摂取量が最も少なかったグループと比較して、その摂取量が最も多かったグループでは、緑内障の発症リスクが21%低くなっていました。周辺視野欠損のリスク低下は、中心視野欠損のリスク低下よりさらに顕著で、44%もの低下が見られました。緑の葉物野菜の摂取量は、硝酸塩摂取における変量の57%を占めていました。(Kang JH, et al., Association of dietary nitrate intake with primary open-angle glaucoma: a prospective analysis from the Nurses' Health Study and Health Professionals Follow-up Study. JAMA Ophthalmol. 2016 Jan 14:1-11.)

実践的ガイドライン

食事についていかなる信念を持っていようと、医療従事者なら誰でも、葉野菜を含む青野菜が健康に良い食材であることを認めているでしょう。上記の研究結果は(因果関係を証明したものではありませんが)、青野菜が視力の維持に有益であることの証拠となります。緑の葉野菜には、ホウレンソウ、ケール、コラード、カラシ菜、濃い緑色のレタス、スイスチャード、ブロッコリー、クレソンなどがあります。硝酸塩の含有に加え、青菜が貴重なのは、視力の維持にも重要な役割を果たすルテインとゼアキサンチンというカロテノイドが含まれているためです。ルテインとゼアキサンチンは、目の網膜と水晶体に見られる唯一のカロテノイドであり、黄斑変性と白内障の予防に役立つ可能性があります。

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2015年12月11日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2015年11&12月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2015年11&12月号若い頃の食事によって心疾患リスクが決まる可能性

今月の話題
◆若い頃の食事によって心疾患リスクが決まる可能性
◆クルクミンはガン細胞の増殖を抑える
◆地中海式食事法がもたらす脳の機能維持効果
◆食事から摂るビタミンEだけでは不十分
◆血清セレン値が低いと死亡率が高くなる





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若い頃の食事によって心疾患リスクが決まる可能性

ある研究グループが、青年期における果物と野菜(青果)の摂取量と、後年に冠動脈アテローム性硬化を発症するリスクとの関係を調べる研究に乗り出しました。そのレポートによると、これは「若年成人における冠動脈疾患発症リスク」(CARDIA)調査にて得られたデータを調べたもので、このCARDIA調査には1985~1986年の開始時より健常な若い黒人と白人が含まれていました。被験者数は2,506人で、うち63%が女性でした。調査開始時の平均年齢は25歳であり、面談で得られた半定量的な食事歴情報を用いて、調査開始時点での青果摂取量が調べられました。

上記の研究では、青果の摂取量に応じて、被験者を「低」「中」「高」のグループに3等分し、20年の追跡期間を経て、その終了時にCTスキャンで冠動脈の石灰化レベルを測定しました。冠動脈の石灰化は、冠動脈アテローム性硬化のリスクを示す指標となります。女性の場合、青果の摂取量が「高」であったグループでは、1日当たりの摂取量が約9皿であったのに対し、男性の「高」グループでは7皿でした。一方、摂取量が「低」であったグループにおける1日当たりの摂取量は、女性の場合3.3皿、男性の場合2.6皿に過ぎませんでした。

20年後の時点で、「高」のグループでは、他のグループと比較して、冠動脈の石灰化レベルが最大26%低い状態でした。他の食事関連変数について調整した後でも、16%という極めて有意なリスク低下が見られました。また、果物と野菜を別々に考えた場合でも、それぞれについて同様に有益な結果が見られました。この論文の執筆者は、こうした研究結果について、問題が生じてからはじめて健康的な食事に切り替えるのではなく、果物と野菜を摂る良い習慣を若いうちに身に付けることの重要性を強めるものである、と結論付けています。(Miedema, M, et al., The association of fruit and vegetable consumption during early adulthood with the prevalence of coronary artery calcium after 20 years of follow-up: The CARDIA Study. Circulation 114.012562 published online before print October 26, 2015.)

実践的ガイドライン

ほとんどの若者(と年配者)が食べている物を見ると、健康的ではないので、医者にとって患者不足で困ることはないだろう、と実感します。本ニュースレターの読者ならご存知でしょうが、上記の「高」にあたる量の果物と野菜に加え、全粒穀物、マメ科植物、種子類およびナッツ類を摂る食事を私は勧めています。様々なおいしい食品、魅力的な食品によって、どんな嗜好も満たされます。

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クルクミンはガン細胞の増殖を抑える

クルクミンは、ポリフェノールの一種であるフィトケミカルで、スパイスであるターメリックに含まれています。抗炎症性と抗酸化性があり、数々の化学物質による肝臓毒性を低下させ、血小板凝集の低減(アテローム性動脈硬化からの保護)をもたらします。メラノーマ(黒色腫)の転移を防ぐ可能性もあります。また、ターメリックが入ったカレーをたくさん食べるインドではアルツハイマー病の割合が異常に低く、クルクミンがその一因であると考えられています。

前号のニュースレターで、うつとガンに対するクルクミンの効果について書きましたが、今回紹介する新たな基礎研究では、直腸結腸ガンの治療に用いる化学療法剤にクルクミンを加えると役立つことが示唆されています。この研究は、直腸結腸ガンの患者由来の肝転移部を用いて、化学療法のみの場合と、クルクミンを組み合わせた場合との違いを調べたものです。5-フルオロウラシルとオキサリプラチンという化学療法剤にクルクミンを加えた場合、増殖の抑制効果ならびにアポトーシス(プログラムされた細胞死)の促進効果が高くなりました。

クルクミンのみを用いた場合、ならびに、化学療法剤とクルクミンを組み合わせて用いた場合に、特定の細胞性腫瘍マーカー値に低下が見られました。フェーズI(第1相)の用量漸増試験では、直腸結腸ガンの肝転移がある患者にクルクミンを、たとえ1日当たり最大2,000 mg与えた場合でも、安全で、かつ耐えられることがわかりました。(James MI, et al., Curcumin inhibits cancer stem cell phenotypes in ex vivo models of colorectal liver metastases, and is clinically safe and tolerable in combination with FOLFOX chemotherapy. Cancer Lett. 2015 Aug 10;364(2):135-41.)

実践的ガイドライン

これについては、前号の内容と変わりはありません。私は、カレーを食べていない日は、今でも約500 mgのクルクミン(のサプリメント)を1日2回を摂っています(カレーはかなり頻繁に食べますが、インドの人ほどではありません)。

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地中海式食事法がもたらす脳の機能維持効果

加齢に伴い、脳は組織の萎縮につれて収縮する傾向があり、時間とともに、認知機能障害(思考力や記憶力の低下)、そして最終的にはアルツハイマー病を含む認知症に至るおそれがあります。しかし、脳機能の早期低下は、加齢によって必然的に生じるものではなく、食事と運動の影響を受けることがあります。こうした萎縮を示す指標として、全脳容積の低下、全灰白質容積の低下(名探偵ポワロの言う「灰色の小さな脳細胞」とは灰白質を表しています)、全白質容積の低下、および平均皮質厚の低下があります(人間の高度な皮質機能は、他の生物から我々を区別しているものの一つですが、違いがこれだけではないことを望みます)。

地中海式食事法を実践すると脳萎縮率に有意な差が出ることが、最近の研究でわかっています。この研究は、認知症がない平均年齢80歳の高齢者674人の脳をMRIで調べたもので、食事アンケートの回答にもとづき、地中海式食事法の実践度に応じて、被験者を最低レベルから最高レベルまでの9グループに分けました。ここでいう地中海式食事法の食事パターンは、魚・野菜・果物・全粒穀物・オリーブオイルを重視し、獣肉をそれほど重視しないものでした。

レベル1~4のグループ(実践度が比較的低いグループ)をレベル5~9のグループと比較した結果、後者のほうが、全脳容積が13 ミリリットル(mL)、全灰白質容積が5 mL、全白質容積が5 mL多い状態にありました。獣肉の摂取量が少ないほうが全脳容積が大きく、一方、魚の摂取量が多いほど全灰白質容積が大きいという関連が見られました。また、魚の摂取量が多いほど、平均皮質厚の値も大きくなっていました。(Gu Y, et al., Mediterranean diet and brain structure in a multiethnic elderly cohort. Neurology. 2015 Oct 21. pii: 10.1212/WNL.0000000000002121. [印刷物に先行した電子出版])

この論文執筆者の推定によると、こうした脳組織の維持効果は、平均すると脳機能低下の開始が5年延びることに相当します。たいした効果には見えないかもしれませんが、認識機能の低下に直面している場合や認知症の可能性がある場合は、個人的見解ならびに経済的負担の両面から、かなり有意な値と言えます。また、実践度が最も高かったグループと最も低かったグループ間で比較をすることができたなら、これよりはるかに大きな差が見られたかもしれません。しかし、こうした比較を意味のあるものとするほど被験者数が多くありませんでした。

実践的ガイドライン

地中海式食事法の特徴は、私がすべての患者さんに日ごろ勧めている食事の内容とほとんど同じです。野菜・果物・全粒穀物・マメ科植物に重点を置き、それに加えて魚を少し食べるが、獣肉はほとんど食べないという食事をすれば、認知機能の維持だけでなく、多くの効果が得られます。特筆すべきこととして、身体活動も認知機能低下の先延ばしに役立つことがわかっています(この目的では社交ダンスが特に効果的ですが、それ以外にも役立つ運動形態はたくさんあります)。

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食事から摂るビタミンEだけでは不十分

健康に良い食事をして、栄養素とフィトケミカルをできるだけ多く摂ることが望ましいのですが、栄養素によっては、食事から摂るだけでは、効果をもたらすほどの量を摂ることが難しいものもあります。非常に健康的な食事を選んでいる人であっても、たとえば、ビタミンCとビタミンDの2つは、食事から十分な量を摂るのは難しいのです。その他の栄養素とフィトケミカルの中にも、環境暴露(汚染や過度の日光暴露)やストレスの影響や、特定の病気に対する遺伝的素因から身を守る特異的な効果をもたらすものがいくつかあります(ただし、疾患に対する遺伝的素因というのは、質の悪い食事や喫煙、アルコールの過剰摂取、運動不足というような不健康な生活習慣の選択肢と比べれば、はるかに小さな要因にすぎません)。米国のほとんどの人は、理想的な食事を摂っていないため、サプリメントの重要性がさらに高いのかもしれません。

米国式の食事をしている場合、ビタミンEという栄養素は食事から摂るだけでは不十分であることが、ある新しい研究でわかっています。ビタミンEは、脂溶性の抗酸化物質で、フリーラジカルによる損傷から細胞膜を守ります。血中ビタミンE値が低いと、死亡率と心疾患率が高くなるという関連が見られています。米国の成人の90%以上は推奨されている量のビタミンEを摂っていないため、研究者たちは、ビタミンEを「不足栄養素」の1つとみなしています。ビタミンE量が十分である状態とは、血清ビタミンE値が1リットル当たり30マイクロモル(30 ɥmol/L)以上の場合をいい、一方、12 ɥmol/L未満であれば欠乏しているとみなされます。

上記の分析研究では、米国健康・栄養調査(NHANES、2003~2006年)にもとづき、ビタミンEが臨床的欠乏状態にある人の割合と、ビタミンE量が十分ではない人の割合の両方を調べることを狙いとしました。臨床的欠乏状態とみなされた人の割合はごくわずかでした。しかし、ビタミンEの摂取源が食品のみであったグループの平均血清ビタミンE値は24.9 ɥmol/Lに過ぎませんでした。一方、食品とサプリンメントの両方からビタミンEを摂っていたグループの平均血清ビタミンE値は33.7 ɥmol/Lでした。

調査の結果、20~30歳のグループのうち87%は、ビタミンE値が不十分な状態でした。51歳以上のグループでは、血清ビタミンE値が不十分であった人の割合は43%でした。ビタミンEを食品のみから摂っていたグループと、食品とサプリメントの両方から摂っていたグループとの差は、年齢、性別、人種・民族の違いを超えて一貫していました。(McBurney MI, et al., Suboptimal serum α-tocopherol concentrations observed among younger adults and those depending exclusively upon food sources, NHANES 2003-20061-3. PLoS One. 2015 Aug 19;10(8):e0135510).

実践的ガイドライン

一般に、食品におけるビタミンEの含有量は非常に少ないのです。ビタミンEを最も多く含む食品は、ヒマワリの種とアーモンドですが、1カロリー当たりの含有量で見ると、ホウレンソウ、ビートの若い葉、アスパラガス、カラシナ、スイスチャードに最も多く含まれています。食品中に見られるビタミンEの形態には、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールがあります。そのうち、食事に最も多く含まれているのはγ-トコフェロールで、これはα-トコフェロールからは得られない効果をいくつかもたらします。私はγ-トコフェロールを多く(1日当たり400 IU)含むサプリメントを摂っています。ビタミンEは高用量でもきわめて安全性が高く、1日当たり3,000 IUという量を与えた場合でも何の副作用も見られていません。また、トコフェロールを1日当たり2,000 IU摂るとアルツハイマー病の進行が遅くなる可能性があることが、いくつかの研究でわかっています。コエンザイムQ10の高量摂取にも同様の効果があり、これはパーキンソン病の進行遅延にも役立つ可能性もあります。

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血清セレン値が低いと死亡率が高くなる

セレンは、食事で摂取する必須微量元素で、抗酸化性があります。抗酸化酵素であるグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要なものであり、また、ビタミンCの再利用にも役立ちます。ガン予防にも役立つ可能性があります。セレンを摂ることができる最も健康的な食品には、全粒穀物と種子類、ならびにブラジルナッツがあります。ブラジルナッツには、このミネラル(セレン)がことのほか多く含まれています。栄養素密度(1カロリー当たりの栄養素量)という点では、クリミニマッシュルーム(まだ小さいポータベラ茸)が最も多くセレンを含んでいます。

血清中のセレン値が十分であると健康への効果があることが、最近の研究でわかっています。スウェーデンで行われたこの研究では、高齢の被験者668人を調べ、各自の血清セレン値を測定した後、6.8年間追跡しました。被験者の平均血清セレン値は1リットル当たり67マイクログラム(67 μgm/L)でした。スウェーデン政府は国民の健康改善のため、もう何十年も栄養情報を提供する運動を展開していますが、それにもかかわらず、この値は比較的低いセレン摂取量に相当します。

上記の研究では、その終了時に、あらゆる原因による死亡率と循環器疾患による死亡率について、血清セレン値との相関を調べました。セレン値にもとづいて被験者を4等分したところ、セレン値が下位4分の1にあったグループでは、上位4分の1にあったグループと比較して、あらゆる原因による死亡率が43%高くなっていました。また、循環器疾患による死亡率については、56%高くなっていました。(Alehagen U, et al., Relatively high mortality risk in elderly Swedish subjects with low selenium status. Eur J Clin Nutr. 2015 Jun 24. doi: 10.1038/ejcn.2015.92. [印刷物に先行した電子出版])

これと同じ研究グループが以前に公表した5年にわたる前向き研究では、セレンとコエンザイムQ10のサプリメント摂取後に、循環器疾患による死亡率に有意な低下が見られています。サプリメントを与えたグループの死亡率は、プラセボグループの半分未満(5.9%対12.6%)でした。(Alehagen U, et al., Cardiovascular mortality and N-terminal-proBNP reduced after combined selenium and coenzyme Q10 supplementation: a 5-year prospective randomized double-blind placebo-controlled trial among elderly Swedish citizens. Int J Cardiol. 2013 Sep 1;167(5):1860-6. doi: 10.1016/j.ijcard.2012.04.156. Epub 2012 May 23.)

実践的ガイドライン

セレンは多くの食品に含まれていますが、その含有量は、食物の生育場所によって異なります。私たちが食べる食品は、国中の至る所(そしてまさに世界中)から供給されていますが、土壌中のセレン濃度が低い地域(米国の場合はニューイングランド地方、南東部、また、南西部の下側、北西部の各州など)では、食品からのセレン摂取量は一般的に低くなります。土壌中のセレン濃度が高いのは、中西部の上側、ノースダコタ州とサウスダコタ州、モンタナ州、コロラド州、その他の隔離領域くらいです。私は1日当たり200 μgのセレンをサプリメントで摂っていますが、これは多くのマルチビタミン+ミネラル剤や、単一のサプリメントに含まれている量です。サプリメントでは、(アミノ酸であるメチオニンと結合させた)セレノ-メチオニンがよく見られ、比較的良く吸収されます。  

2015年11月10日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2015年9&10月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2015年9&10月号コエンザイムQ10と心房細動

今月の話題
コエンザイムQ10と心房細動
健康的な食事による死亡率低下
砂糖入り飲料は糖尿病のリスクを高める
ビタミンDが転倒予防に役立つ可能性
うつとガンに対するクルクミンの効果






コエンザイムQ10と心房細動

心房細動とは、心臓の小さい方の部屋(心房)が規則正しく拍動しておらず、律動的に収縮せずに単に震えている状態をいいます。これは心機能低下の原因となりますが、ただ、心房拍動によって左心室に送られる血液の割合は20%に過ぎない(その他は僧房弁を通って受動的に左心室に流れる)ため、通常は、身体を衰弱させるような病気ではありません。とはいえ、心房が収縮していないので、血液が心房壁の複雑な管状通路にたまって凝固してしまう可能性が高くなります。そのため、持続性の心房細動患者に対しては、押し流された血栓によって脳卒中や他の組織損傷が起こるのを防ぐため、ワルファリン(クマディン)などの抗凝血剤や、それと同じ用途である一部の新薬が処方されるのが通例です。

心不全の患者は心房細動を生じることが多く、心不全の重症度によっては、心不整脈が重症化するリスクが高くなるとも考えらえます。ある新しい研究では、102人の心不全患者に対し、通常の心不全治療薬+プラセボ、もしくは、それと同じ治療薬+コエンザイムQ10のサプリメント(1日30mg)のいずれかの組合せを与える試験を行いました。被験者の内訳は、男性72人、女性30人で、年齢は45~82歳でした。試験開始時の調査では、心エコー検査(訳注:原稿はelectrocardiogram=心電図となっていますが、論文の抄録を見たところDoppler echocardiography=ドップラー心エコー検査となっていました)と24時間ホルタ―心電図検査を行い、また、心疾患リスクの指標となる炎症性物質の血中値を調べました。そして6カ月後と12カ月後の時点で再び調査を行いました。

2回の追跡調査のいずれにおいても、コエンザイムQ10との組合せを与えたグループ(=処置グループ)のほうが、心房細動の発生率が有意に低くなっていました。そのうち12カ月後の調査時点では、心房細動の発生率が、薬剤のみのグループ(=対照グループ)では22.2%であった一方、処置グループでは6.3%でした。また、心筋機能(駆出率)の改善率についても、両方の追跡調査において、処置グループのほうが対照グループより有意に高くなっていました(対照グループが19%であったのに対し24%)。また、炎症マーカー値も、処置グループのほうが対照グループより顕著に低くなっていました。例えば、C反応タンパク(CRP)値の低下率は、対照グループでは20%でしたが、処置グループでは40%でした。(Zhao Q, et al., Effect of coenzyme q10 on the incidence of atrial fibrillation in patients with heart failure. J Investig Med. 2015 Jun;63(5):735-9.)

実践的ガイドライン

コエンザイムQ10は、筋細胞内でのエネルギー産生に不可欠であり、心臓は、他のいかなる筋肉よりも多くのコエンザイムQ10を必要とします。心疾患患者は、コエンザイムQ10値が低過ぎることが多く、スタチン系の薬剤治療を行うと、その値がさらに低下することがあります。上記の研究で用いられたコエンザイムQ10の用量(30 mg)は、一般的な治療用量(100~400 mg、もしくは重度の心疾患患者の場合はそれ以上)と比べ、極めて少ないものでした。

試験が期待どおりの結果が出ないように計画することは容易ですが、上記の研究について私が驚いたのは、このような少ない用量で、かつ、比較的少人数の被験者グループで、こうした統計的に有意な効果が見られたことです。この研究に伴う引用文献のうち、特定用量のコエンザイムQ10を与えた研究は1つしかなく、しかもそこで用いられた用量は1日当たり平均100 mgだったので、前述の研究で選択された治療用量がわずか30 mgというのは驚きです。私は、1日当たり100~200 mg摂ることをお勧めしています(私は400 mg摂っています)。ユビキノール(還元型)よりユビキノン(酸化型)のほうが多く見られ、ユビキノンは体内でユビキノールに変換されますがユビキノールを摂ったほうが、効果がありそうです。



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健康的な食事による死亡率低下
米国政府による「アメリカ人のための食生活指針(DGA)」の定義にもとづく健康的な食事により、主要な慢性疾患の罹患率およびそれによる死亡率が下がることを示した研究はいくつかありますが、そうした研究はほとんど、ヒスパニック系でない白人を対象としたものとなっています。アフリカ系アメリカ人や低所得者層についても同じデータが得られるか否かは、これまで不明でした。(なおDGAについては、人が選択できる最も健康的な食事とはかぎらないと私は思っています。)
ある新しい前向き研究にて、研究グループは、米国南東部の12州から、低所得者層に含まれる40~79歳のアメリカ人成人84,735人を募集・採用しました。そして最近公表されたそのレポートには、アフリカ系アメリカ人50,434人、白色人種24,054人、その他の人種・民族から成る被験者3,084人から得られたデータが記載されていました。この被験者のほとんどは、年間家計所得が15,000ドル未満でした。被験者の食事調査は、有効性が確認されている食品摂取頻度調査票を用いて行われ、DGAの順守状態については、健康食事インデックス(HEI)により測定されました。被験者の追跡期間は平均6.2年でした。

追跡期間中に死亡した被験者数は6,906人で、そのうち循環器疾患による死亡は2,244人、ガンによる死亡は1,794人、その他の疾患による死亡は2,550人でした。HEIのスコアが最も高かったグループでは、HEIのスコアが最も低かったグループと比較して、死亡リスクが19~23%低くなっていました。より健康的な食事による効果は、民族、性別、所得レベルに関係なく見られました。HEIの構成要素のうち、健康度の改善に最大級の関連が見られたのは、全粒穀物、乳製品、魚介類、植物性タンパク質、ならびに、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率(つまり、動物性脂肪が少なく、植物由来の必須脂肪酸が多い状態)でした。(Yu D, et al., Healthy eating and risks of total and cause-specific death among low-income populations of African-Americans and other adults in the southeastern United States: a prospective cohort study. PLoS Med. 2015 May 26;12(5):e1001830;.)

これと関連する情報が、アフリカ系アメリカ人20人を南アフリカの地方在住アフリカ人20人と比較した研究から得られています。その研究では、この2つのグループ間で食事内容を2週間取り換えました。つまり、アフリカ系アメリカ人には、動物性タンパク質と脂肪が少なくて食物繊維と野菜・豆類・コーンミールを多く摂る、まさに現地アフリカ人と同じ食事を実践させ、一方、アフリカ人には、脂肪分の多い獣肉やチーズを含む典型的なアメリカ式の食事を実践させました。

わずか2週間後に被験者の大腸内視鏡検査を行った結果、アフリカ式の食事を実践したアメリカ人グループには、結腸ガンのリスクを示すマーカー値にすでに改善が見られた一方、アメリカ式の食事を実践したアフリカ人グループには、前がん状態の細胞の発生を示唆する変化が生じていました。その他にも、アフリカ式の食事の場合にはガンのリスク低下を示唆する微生物叢の変化が見られ、アメリカ式の食事の場合にはそのリスク増加を示唆する微生物叢の変化が見られました。(O'Keefe SJ, et al., Fat, fibre and cancer risk in African Americans and rural Africans. Nat Commun. 2015 Apr 28;6:6342.)

実践的ガイドライン

健康的な食事によって慢性疾患のリスクが低くなると聞いても驚きませんが、わずか2週間でリスクの変化を示す現象が認められたのは驚きです。食物繊維と野菜を多く摂り、動物性脂肪・精製食品・獣肉の摂取量を減らし、全粒穀物や加工されていない果物と野菜、マメ科植物、種子類、ナッツ類、魚を中心とした食事を摂る、というのが基本的なメッセージです。先進工業国の典型的な食事は、こうした食事とは懸け離れています。



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砂糖入り飲料は糖尿病のリスクを高める

あるレビュー研究にて、砂糖入り飲料・人工甘味料入り飲料・果汁飲料と2型糖尿病との関係を分析したものがあります。この研究グループは、米国での全国調査(糖尿病のない成人1億8,900万人を含むもの)や英国での全国調査(4,400万人を含むもの)を用いた前向き研究のみを調査対象とし、2014年までに公表された研究のデータを含めました。

その結果、砂糖入り飲料を1日当たり1杯多く摂るごとに2型糖尿病の発生率が18%高くなるという関係が見られ、肥満という因子を除いたところ、この増加率は13%となりました(糖尿病のリスクがすべて体重増加に起因するとは限らないという意味です)。人工甘味料入り飲料については、1杯当たりのリスク増加は25%でしたが、肥満という因子を除いた場合、この増加率はわずか8%でした(これは肥満が糖尿病のリスクにも人工甘味料入り飲料をよく飲むことにも関連していることを示唆しています)。果汁飲料については、糖尿病のリスク増加は見られましたが、その原因はほとんどすべて肥満にあり、飲料そのものにはありませんでした。

このレビュー論文の執筆者は、10年間で約10%の糖尿病症例が砂糖入り飲料の摂取に起因していると考えることができると推論しています。また、この執筆者によると、人工甘味料入り飲料も、果汁飲料も、健康面では砂糖入り飲料の代わりとなりそうにありません。

実践的ガイドライン:

砂糖入り飲料を飲んでいる人は、こうしたメッセージに耳を傾けそうにありませんが、場合によっては飲むかもしれない少数派にメッセージを繰り返すことは重要です。果汁飲料のほうがずっと良いという事実が上記の論文からは不明瞭ですが、果汁飲料のほうが少なくともいくつかの栄養素をもたらす可能性が高いことは確かです。問題は、ほとんどの果汁飲料が、多くの砂糖入り飲料と同じくらい甘いということです。果汁飲料は、きわめて薄く希釈されている場合にのみ使うことをお勧めします。私なら、果汁10~15%程度のものを、水や発泡水の風味付けとして使うくらいでしょう。



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ビタミンDが転倒予防に役立つ可能性

最近の多くの論文で、ビタミンDの健康効果について報告されています。ある新しい研究では、外出ができない高齢者を対象とし、ビタミンDのサプリメントでビタミンD値を高めれば骨折発生率が下がる可能性があるか調べました。この研究の被験者は、外出ができないことから、日光に多く当たってる可能性が低く、また、それと併せて高齢ということは、皮膚に紫外線が作用して生成されるビタミンDの量があまり多そうにない、ということを意味します。

被験者は65~102歳の成人68人でした。研究グループは、ミールズ・オン・ホイールズ(在宅の老人や高齢者に食事を運ぶサービス)のプログラムを利用して、プラセボもしくは100,000 IUのビタミンDを月1回、被験者に与えました。この量は、1日当たり3,300 IUという平均的な1日用量の1カ月分に相当します。ビタミンDは脂溶性であり、水溶性のビタミンより長く体内にとどまるため、月1回の投与でも不当ではなく、また、回数が少ないほうが被験者が従いやすいのです。プラセボは、1カ月分の低用量ビタミンEでした。

試験開始時に調べた血清ビタミンD(25(OH)D3)値が、欠乏とみなされる20 ng/mL未満であった被験者の割合は57%でした。上記の処置を5カ月施した結果、終了時の検査でもビタミンD値が低かったのは、ビタミンDを与えたグループでは1名のみでした。一方、プラセボグループでは25人のうち18人が20 ng/mL未満のままでした。(20~40 ng/mL以上が健康的な値ですが、最適な健康状態とするため40~60 ng/mL、もしくはさらに高くするよう勧めている専門家も多くいます。)

5カ月後の結果にもとづく統計分析により、処置グループ(ビタミンDを与えたグループ)のほうが対照グループより転倒率が58%低いことがわかりました。(Houston DK, et al., Delivery of a Vitamin D Intervention in Homebound Older Adults Using a Meals-on-Wheels Program: A Pilot Study. J Am Geriatr Soc. 2015 Aug 16. doi: 10.1111/jgs.13610. [印刷物に先行した電子出版])

それより前、2010年に公表されたある研究では、デザインが異なり、違う結果が得られています。ただし、その研究は、500,000 IUという年間用量のビタミンDを1回投与したもので、処置グループのほうがプラセボグループより骨折率と転倒数がわずかに高いという結果が見られています。前述の新しい研究では、合計500,000 IUのビタミンDをちょうど5カ月に分けて用いる形としました。また、2010年の研究は、外出ができない人を対象としたものではなく、試験開始時点での被験者のビタミンD値がこちらの方が高かった(重度の欠乏症である人の割合が3%未満であった)という点で異なっています。(Sanders KM, et al., Annual high-dose oral vitamin D and falls and fractures in older women: a randomized controlled trial. JAMA. 2010 May 12;303(18):1815-22.)

実践的ガイドライン

サプリメントを用いてビタミンD値を高くすれば、多くの健康効果が得られます。こうした効果については、これまでニュースレターで何度も紹介してきました。転倒は、入院や永久的就労不能を招いたり死につながることも少なくないので、深刻な健康問題となります。血清中のビタミンD値を調べてもらい、十分なサプリメントを摂ることにより、ビタミンD値を40~60 ng/mLまで引き上げることをお勧めします。そのためには通例、1日当たり2000~8000 IUのビタミンDを摂る必要があり、この量は、年齢や日光暴露量、住んでいる場所、食事内容、個人の代謝量によって異なります。



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うつとガンに対するクルクミンの効果

今年公表された研究論文で、クルクミン(ターメリック・エキス)のサプリメント摂取による効果を示したものが2本あり、うつの治療効果、ガンの予防効果、およびガンの治療に役立つ可能性について情報が提供されています。うつへの効果を調べた研究は、大うつ病性障害の患者50人に、クルクミンのエキス(500 mg を1日2回)もしくはプラセボを8週間与えたもので、IDS-SR30と呼ばれるうつ状態自己評価尺度を用いてうつの重症度を測定しました。この研究では、尿中バイオマーカー値と血液バイオマーカー値も測定されました。

8週間後の検査の結果、クルクミンを与えたグループでは、プラセボグループと比較して、IDS-SR30のスコアに有意な改善が見られました。うつと関連のあるバイオマーカー値も、クルクミンのグループでは低下していました。(Lopresti AL, et al., Curcumin and major depression: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial investigating the potential of peripheral biomarkers to predict treatment response and antidepressant mechanisms of change. Eur Neuropsychopharmacol. 2015 Jan;25(1):38-50.)

上記と同じ論文執筆者のグループがそれより前に行った試験では、上記と同じ用量のクルクミン・エキスのサプリメント摂取により、4週間後と8週間後の両方の時点で、IDS-SR30の総スコアならびに気分を示す特定のスコアに有意な改善が見られました。(Lopresti AL, et al., Curcumin for the treatment of major depression: a randomised, double-blind, placebo controlled study. J Affect Disord. 2014;167:368-75.)

ガンの予防と治療に対するクルクミンの効果を示した研究はいくつかあり、2月に公表されたレビュー研究では、クルクミンを、様々な腫瘍の発生・進行・転移を抑制するポリフェノール性抗炎症物質として評しています。その執筆者の説明によると、こうした抗ガン作用は、ガン促進分子の負の調節を介してもたらされるということです。また、これはガン細胞の増殖を食い止め、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘発し、血管形成(腫瘍に栄養を送るための新しい血管の増殖)を抑制します。(Shanmugam MK, et al., The multifaceted role of curcumin in cancer prevention and treatment. Molecules. 2015 Feb 5;20(2):2728-69.)

実践的ガイドライン

私は、約500 mgのクルクミン(ターメリックの標準エキス)を1日2回摂っています。また、いろいろなカレー料理を味わうのも好きで、これはカレーに含まれるターメリックを摂るためでもあります。クルクミンは吸収がとても良いわけではないので、1回に多く摂る必要がありますが、かなり高用量で摂取してもきわめて安全です(ある研究では1日当たり6,000 mgという量を用いて、乳ガン患者の放射線皮膚障害の治療に成功しています)。一部のガン専門医による主張に反し、(クルクミンなどを含む)抗酸化物質は、化学療法の効果を妨げるものではなく、実際にはその効果を高め、副作用の予防に役立ちます。
  


2015年07月24日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2015年7&8月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2015年7&8月号葉酸は脳卒中のリスクを下げる

今月の話題
葉酸は脳卒中のリスクを下げる
L-カルニチンは心臓発作後のCRP値を下げる
リコピンは腎臓ガンのリスクを下げる
高齢者による運動が死亡リスクを下げる
オメガ3系脂肪酸が心臓発作後にもたらす効果




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葉酸は脳卒中のリスクを下げる

ビタミンである葉酸は、妊娠中に摂ると出生異常を防ぐことは昔から知られており、ほとんどどんな用量でも、何のリスクももたらしません。ただ、大量に摂ると、ビタミンB12が欠乏した状態であってもそれが隠れてしまうおそれがあります(こうした欠乏症を引き起こすのではありません)。そのため、葉酸の高用量摂取をする場合には、血清ビタミンB12値が十分であることを確認することが重要です。最も一般的な用量(1日当たり1,000 μg未満)であれば、ビタミンB12の欠乏が隠れることはありません。葉酸にはこの他にも、循環器疾患と脳卒中に対する効果があることが、新しい研究で示されています。

中国で行われたその研究は、高血圧症の成人20,702人を含めたもので、この被験者は、試験開始の時点で、脳卒中と心臓発作の病歴はありませんでした。この試験は、「中国脳卒中一次予防試験(CSPPT)」と呼ばれる無作為化二重盲検臨床試験であり、その被験者全員に、高血圧治療のためのACE阻害薬であるエナラプリル(商号:バソテック)が与えられました。これに加え、被験者の半数に毎日800 μgの葉酸、残りの半数にプラセボが与えられました。そして、平均4.5年にわたり被験者の追跡を行いました。

試験の終了時に、研究グループは、この期間中に脳卒中(虚血性脳卒中と出血性脳卒中を含む)を初めて生じた被験者の数を調べました。また、心臓発作の件数、心血管系死亡の件数、総死亡率にも注目しました。(Huo Y, et al., Efficacy of folic acid therapy in primary prevention of stroke among adults with hypertension in China: the CSPPT randomized clinical trial. JAMA. 2015 Apr 7;313(13):1325-35.)

エナラプリルのみを与えたグループと比較して、プラセボではなく葉酸をエナラプリルと併せて摂っていたグループでは、初回脳卒中を生じるリスクが21%低く、初回虚血性脳卒中を生じるリスクは24%低くなっていました。また、心血管系死亡、心筋梗塞、脳卒中から成る心血管系複合事象のリスクが20%低くなっていました。出血性脳卒中のリスクと総死亡率についても減少傾向は見られたものの、その減少率は統計的に有意な域には達していませんでした。また、この組合せで摂っていたグループでは、エナラプリル+プラセボのグループと比較して、副作用の増加は見られませんでした。

実践的ガイドライン

葉酸は、その名が示すとおり、茎葉、つまり葉物野菜に含まれています。一般的にマルチビタミン剤で400 μgの量を摂ることができますが、800 μgの葉酸を含んでいるマルチビタミン剤もあります。葉酸は、細胞の複製と増殖、ならびにDNAとRNAの生成に不可欠です。また、循環器疾患との関連が見られている代謝物であるホモシステインの低減に役立ちます。処方箋がなくても5,000 μgもの高用量の葉酸を入手することができ、そうした高用量摂取は、それ以下の場合より、ホモシステインを低下させる効果が高くなります。実際にそうした高用量摂取をする場合は、ビタミンB12値を調べてもらうのが良策です。その他の点では、葉酸の高用量摂取によるリスクはありません。


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L-カルニチンは心臓発作後のCRP値を下げる

炎症は、冠動脈疾患の発症に対する危険因子の一つです。炎症マーカーには、血清中のC反応性タンパク(CRP)値、インターロイキン-6(IL-6)値、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)値などがあります。こうしたマーカー値が高いと、冠動脈疾患の発症率が高くなるという関連が見られています。L-カルニチンは、アミノ酸誘導体の1つであり、サプリメントとして摂取すると冠動脈疾患に効果があることがわかっています。L-カルニチンは体内で生理的に生成されますが、その生成量は加齢に伴い減少します。ある新しい研究では、L-カルニチンのサプリメントがいかに役立ち得るか示されています。

この研究は、心臓カテーテル検査により、少なくとも1つの主冠動脈に50%の閉塞が見られた冠動脈疾患患者47人を特定し、プラセボを与えるグループ、もしくは1日当たり1,000 mgのL-カルニチンを含むサプリメントを与えるグループのいずれかに無作為に割り当て、12週間追跡したものです。試験を開始したグループのうち、全12週間を終えた被験者は39人でした。(Lee BJ, et al., Anti-inflammatory effects of L-carnitine supplementation (1000 mg/d) in coronary artery disease patients. Nutrition. 2015 Mar;31(3):475-9.)

プラセボグループと比較して、L-カルニチンのサプリメントを与えたグループでは、血清中のCRP値、IL-6値およびTNF-α値に有意な低下が見られました。これは、L-カルニチンが心疾患の予防に重要な役割を果たすことを示唆しています。上記は、L-カルニチンの補給量としては比較的少ないものでした。私が2月号(英語版1月号)でご紹介した別の研究によると、心臓発作の患者に対し、2,000 mgのL-カルニチンを含むサプリメントを毎日与えた結果、狭心症、心筋の壊死、心疾患、心室拡大ならびに不整脈の発生率が低くなっていました。

実践的ガイドライン

L-カルニチンのサプリメントはきわめて安全で、心疾患リスクの低下に役立ちます。私はいつも、1日当たり2,000 mg摂っています。自分に必要な分を体内で生成することができる若者なら、サプリメントで摂るほど重要ではないかもしれませんが、たとえ若者の場合でも、十分に生成されないことがあります。

L-カルニチンは、コエンザイムQ10と一緒に摂ると、うまく機能します。どちらもミトコンドリア内でのエネルギー産生に重要なためです。L-カルニチンは、ミトコンドリア膜を越えて遊離脂肪酸をミトコンドリア内に運びます。ミトコンドリアの中では、コエンザイムQ10を補因子として、この脂肪酸が代謝されてエネルギーが生産されます。遺伝的な障害によってL-カルニチンの生成量が少なくなる場合もあるし、抗けいれん薬や腎臓透析によってカルニチン値が低下することもあります。1日に20,000 mgもの量を投与しても副作用は見られていませんが、場合によっては、高用量摂取により消化器の不調が生じる可能性があります。


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リコピンは腎臓ガンのリスクを下げる

リコピンは、カロテノイドという栄養素の一種(β-カロテンやルテインの親戚)であり、色素として、赤い果物や野菜のいくつか(すべてではない)に含まれています。リコピンには、前立腺をガン(とくに侵襲性の高いガン)から守る効果や、皮膚を日焼けの損傷から守る効果、および骨密度を改善する効果があることがわかっています。また、抗酸化物質として、LDL-コレステロールの酸化防止に役立ち、また、加齢性黄斑変性症のリスクを下げます。

リコピンには腎臓ガン(腎細胞ガン)の発症リスクを下げる効果もあることが、新しい研究でわかっています。この研究は、ウィメンズ・ヘルス・イニシアティブ(WHI)に登録していた閉経後の女性96,196人について1993年から1998年の間に調べ、2013年まで追跡したものです。研究グループは、食品摂取頻度調査票を用いて、被験者による食事性微量栄養素の摂取量を調べ、また、面接に基づく調査記録を用いて、サプリメントの使用状況を調べました。

調査期間の終了までに、腎細胞ガンがあると認められた被験者は240人でした。リコピンの摂取量が最も多かったグループでは、その摂取量が最も少なかったグループと比較して、腎細胞ガンの発症リスクが39%低くなっていました。この研究では他の微量栄養素についても調べましたが、腎細胞ガンのリスクに統計的に有意な低下をもたらしたものは、他にはありませんでした。(Ho WJ, et al., Antioxidant micronutrients and the risk of renal cell carcinoma in the Women's Health Initiative cohort. Cancer. 2015 Feb 15;121(4):580-8.)

実践的ガイドライン

リコピンは、トマトに豊富に含まれていますが、生のトマトより、トマトソースやトマトペーストのほうが高濃度で含まれています(ソースやペーストを作るときに水分を飛ばすため、栄養素が凝縮されるとともに、リコピンが細胞壁から放出されます)。スイカとレッドネーブルオレンジには、生のトマトよりさらに多くのリコピンが含まれています(ただし、ブラッドオレンジは、深い赤色でもアントシアニン系の色素によるもののため、これには当てはまりません)。

リコピンは、サプリメントとして入手することもでき、リコピンを食事から多く摂っていない人は、サプリメントを摂る価値があります。リコピンには、皮膚を紫外線から守る効果があるため、日焼けの損傷による見た目の老化防止に役立つ可能性があります。サプリメントの一般的な用量は1日当たり10~15 mgです。


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高齢者による運動が死亡リスクを下げる

定期的に運動することが健康維持における重要な要素であることは、きわめて明白です。そうではないことを示唆している報告もいくつかありますが、そうした報告は、他のほとんどの研究によって支持されていません。座りがちな生活をしていると、筋力と骨密度が低下し、また、様々な慢性退行性疾患のリスクが高まります。高齢男性を調べた新しい研究では、運動量を増やすと多大な効果が得られることがわかっています。

この研究は、ノルウェーの研究グループが、1923年~1932年生まれの男性5,738人について、2000年から12年間追跡して調べたものです(つまり、被験者はこの調査の開始時に68歳~77歳であったことになります)。この追跡期間中に、2,154人の被験者が死亡しました。研究グループは、被験者が行っていた運動の量を分析して、死亡リスクと関連付けました。活動は、軽い運動から激しい運動まで多岐にわたっていたため、研究グループは、被験者が運動に費やしていた1週当たりの時間量を分析しました。また、相対的な死亡リスクと、喫煙に関連した死亡リスクとの比較も行いました。

その結果、1日30分の運動を週6日行うと死亡リスクが40%低くなるという関係が見られました。これは、座りがちな生活をしているグループを、中程度~激しい運動をしているグループと比較した場合に、寿命が5年増えることに相当します。運動不足は、あらゆる原因による死亡の危険因子として、喫煙とほとんど同程度の予測力があり、運動量を増やすことは、禁煙するのと同じくらい、死亡率を下げる効果があることがわかりました。(Holme I, Anderssen SA, Increase in physical activity is as important as smoking cessation for reduction in total mortality in elderly men: 12 years of follow-up of the Oslo II study. Br J Sports Med 2015;49:743-748.)

実践的ガイドライン

この研究グループによると、たとえ73歳でも、身体活動度と死亡リスクの減少には強い関連が見られたということです。早歩きやジョギング、スポーツ活動、きつい庭仕事、ハードなトレーニングなどを週に4時間程度行うと、心疾患やあらゆる原因による死亡リスクの低下に役立つということは、すでにかなり明白であるはずです。

このような研究は、因果関係を示すものではなく、関連性を示したものにすぎません。なぜなら、最も運動量が少ないとされた被験者は、すでに病気であったためそうした生活を送っていた可能性もあるからです。しかし、何歳からでも運動プログラムを始めることは良策であり、それに伴うリスクはほとんどなく、多大な効果が得られる可能性があるのです。私は、週に数回ジムに通っており、最近では、ウォーキング、庭仕事、水泳に加え、家でもゴムバンドやゴムチューブを使った運動を始めました。


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オメガ3系脂肪酸が心臓発作後にもたらす効果

オメガ3系脂肪酸は、亜麻の実やクルミなど、いくつかの植物性食品に含まれており、大豆(豆腐を含む)、芽キャベツ、カリフラワーにも少量含まれています。植物に含まれているオメガ3系脂肪酸とはα-リノレン酸(ALA)であり、これは体内でエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)という生理的に有効な形に変換されます。人によってはALAをEPAとDHAにうまく変換することができず、こうした変換障害は、とくに加齢や疾患との関係が見られています。EPAとDHAを直接摂ることができる食品としてまず挙げられるのは、イワシ、サケ、サバ、ニシンなど、脂肪の多い魚です。また、サプリメントの形で摂ることもできます。EPAとDHAには抗炎症作用があります。

3月に米国心臓病学会からのニュースリリースで報告された研究で、オメガ3系脂肪酸のサプリメント摂取が心臓発作の経験者にもたらす効果を示したものがあります。そのデータは、サンディエゴでの学会で発表されました。この研究は、心臓発作(梗塞)から回復した患者374人を無作為に抽出し、標準的な治療の他に、被験者の半数に毎日4 gのオメガ3系脂肪酸を与え、残りの半数にプラセボを与えたものです。被験者のマッチングでは、梗塞の箇所および年齢を合わせました。被験者の分析には血液検査と心臓画像診断が用いられ、心臓発作の2~4週間後に1回、6か月後に再度実施されました。

この研究では、心臓の核磁気共鳴画像法(MRI)を用いることにより、患者の心臓における変化を見ることができました。こうした高用量のオメガ3系脂肪酸を摂っていたグループ(治療グループ)では、プラセボグループと比較して、心機能の低下が見られる可能性が39%低くなっていました。治療グループでは、炎症マーカーに大幅な低下が見られ、また、心筋の瘢痕化にも有意な減少が見られました。こうした高用量のオメガ3系脂肪酸摂取に伴う副作用は、何も見られませんでした。(ACC News Release, March 4, 2015. Omega-3 fatty acids appear to protect damaged heart after heart attack. Study suggests this therapy may provide added benefits to standard care. 詳細は下記リンクを参照: http://drjanson.us5.list-manage.com/track/click?u=7e82fc89c6b5c0826ec92641d&id=4f81db7c2f&e=fa991dc683)

実践的ガイドライン

私はほとんどベジタリアンの食事をしていますが、時々は天然のサケやイワシなど、EPAとDHAを含む魚を食べます(アラスカではサケの養殖は認められていないので、アラスカ産のサケはすべて天然物です)。また、亜麻仁油や亜麻の実、クルミを摂ることにより、α-リノレン酸もいくらか摂るようにしています。上記の研究で用いられた処方では、EPAとDHAが合わせて840 mg含まれていましたが、処方箋なしで買える魚油由来のEPA・DHA濃縮物には、EPAとDHAが合わせて最大600 mg含まれていることがあり、費用もかなり安く済みます。  

2015年06月24日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2015年5&6月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2015年5&6月号非ステロイド性抗炎症剤と脳卒中による死亡との関連

今月の話題
非ステロイド性抗炎症剤と脳卒中による死亡との関連
ビタミンは脳卒中のリスク低下に役立つ 
マグネシウムは糖尿病のリスクを下げる 
全粒穀物による死亡率の低下
膵臓ガンのリスクを下げる栄養素





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非ステロイド性抗炎症剤と脳卒中による死亡との関係

最近開発された選択性の非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)の一部に、脳卒中による死亡リスクが高くなるという関連が見られています。こうした新型の薬には、ジクロフェナク(商品名「ボルタレン」)や、エトドラク(商品名「ロジン」)などがあります。アスピリンやイブプロフェンなど、旧型の薬には、こうしたリスクとの関連は見られませんでした。上記の薬は、骨関節炎と関節リウマチの両方の治療薬としてよく使われており、痛みと炎症の両方を軽減します。

デンマークで行われた新しい研究によって、こうしたリスクの一部が明らかになっています。その研究グループは、医療データベースを用いて全国的な集団ベース研究を行い、2004年から2012年までの間、初回脳卒中による入院数と、その後の死亡率を突き止めました。彼らは100,043人の患者の記録を調べ、入院前60日以内にNSAIDの処方を受けていた患者はNSAID使用者として分類、その他は非使用者と元使用者に分類しました。また、調査の時点でNSAIDを使用していた患者(=現使用者)については、さらに、新規使用者と長期使用者に分類しました。そして、投与後30日以内に死亡した患者数を調べました。

その結果、虚血性脳卒中患者のうちNSAIDの現使用者であったグループの全死亡率は、非使用者と比較して19%高いことがわかりました。こうした結果の大半を占める理由として、新規使用者では死亡リスクが42%高くなっていました。これは、「ロジン」で53%のリスク増加、「ボルタレン」で28%のリスク増加が見られたためです。元使用者のグループでは、脳卒中のリスクは増えていませんでした。また、非選択性の旧型NSAID(「モトリン」や「アドビル」という商品名のイブプロフェンなど)にも、脳卒中のリスク増加との関連は見られませんでした。(Schmidt M, et al., Preadmission use of nonaspirin nonsteroidal anti-inflammatory drugs and 30-day stroke mortality. Neurology 2014 Nov 25;83(22):2013-22.)

実践的ガイドライン

新薬は、旧型の薬より明らかに優れている場合もあれば、そうでない場合もあります。鎮痛効果や抗炎症効果を評価するなら、アスピリンやイブプロフェンを使っていれば、(胃腸出血を伴う場合もありますが)他のリスクを高めることなく、その役割を果たしたかもしれません。関節炎の痛みと腫れについては、魚油や、ビタミンC、クルクミン、ショウガ、ボスウェリア、ビタミンE、ブロメライン(パイナップル由来の酵素)を摂るというような非薬物療法によっても軽減できる可能性があることが、いくつかの研究でわかっています。

関節リウマチの治療に要したビタミンEの用量は、1日1,200~1,800 IUでした。魚油の通常用量は、EPAとDHAを足して3,000 mg、ブロメラインの通常用量は、3,000 mcu(mcu=ミルク凝固単位)を1日3回です。私はいつも、ビタミンCとビタミンE、ならびにクルクミンを摂っており、傷害対策として必要なときはボスウェリアと魚油をこれに加え、また時々、ブロメラインを摂ります。



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ビタミンは脳卒中のリスク低下に役立つ

もとより、脳卒中を完全に防ぐことができるのなら、薬剤による脳卒中死亡のリスクなど、それほど重要でありません。脳卒中を防ぐ方法の一つは、健康的な生活を送ることです。つまり、野菜と果物を多く摂る食事をして、豆類、全粒穀物、種子類、ナッツ類も摂ること、定期的に運動すること、体重を管理すること、そしてストレスを減らすことです。これはすべて、正常血圧の維持にも役立ち、結果的に、脳卒中のリスクも低くなります。サプリメントを摂ることも、予防に役立つ可能性があります。

日本で行われた、ある新しい研究では1988~1990年における各調査の開始時点で循環器疾患もガンもなかった男女72,180人の追跡調査を行い、脳卒中のリスクと、マルチビタミン剤の使用との関連性について調べました。被験者の追跡期間は19年で、その間に、脳卒中による死亡は2,087件確認されました。そのうち、虚血性脳卒中(動脈閉塞によるもの)は1,148件、出血性脳卒中(出血によるもの)は877件でした。

統計分析の結果、マルチビタミンを使用していた被験者グループでは、虚血性脳卒中のリスクに、20%という統計的に有意な低下が見られました。一方、出血性脳卒中のリスク低下率は4%と、有意なものではありませんでした。こうした関連性は、マルチビタミン剤を随時していたグループよりも、常用していたグループで、とくに顕著に見られました。全体では、虚血性と出血性の両方の脳卒中を組み合わせた場合に脳卒中のリスクが13%低くなっていました。最も有意な効果が見られたのは、果物と野菜の摂取量が少なかったグループでした。(Dong JY, et al., Multivitamin use and risk of stroke mortality: the Japan collaborative cohort study. Stroke. 2015 May;46(5):1167-72.)

実践的ガイドライン

マルチビタミン剤の摂取は、慢性疾患(この場合は脳卒中)に対する備えの一助となります。しかし、上記の研究から、果物と野菜をたくさん食べるとマルチビタミン剤によるこうした特定の効果が低下する場合があることがわかります。とはいえ、他の諸研究により、マルチビタミン剤を含め、習慣的なビタミン摂取には、他の効果もあることがわかっています。私は、果物と野菜を豊富に含む食事をしていますが、それでも、総合的なマルチビタミン剤を常用しています。



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マグネシウムは糖尿病のリスクを下げる

マグネシウムは、食事に含まれる重要な主要ミネラルの一つであり、300を優に超える酵素系がそれに依存しています。マグネシウムは、(カルシウムとともに)骨形成にとって不可欠であり、ビタミンB群の活性化、筋肉の弛緩、およびエネルギー生産にも欠かせません。また、インスリンの分泌と活性にも不可欠であるため、糖尿病患者には重要です。マグネシウムは、濃い緑色の葉野菜に豊富に含まれており(クロロフィルの中心原子がマグネシウムなので緑色になります)、その他にも、全粒穀物、豆類、ナッツ類にも含まれています。(豆腐は、塩化マグネシウムを凝固剤として用いて作られることが多く、そうした物には、さらに多くのマグネシウムが含まれます)。典型的な量産食品を摂る食事では、マグネシウムの摂取量が少なかったり基準に達しなかったりすることがよくあります。こうした食品は世界中でどんどん普及しています。米国の大人の場合、1日のマグネシウム所要量より100~200 mg不足しているのが一般的です。

ある研究グループが、2001~2010年の全米健康栄養調査(NHANES)から得られたデータを取り出し、19歳以上の男女14,388人におけるマグネシウム摂取量と糖尿病のリスク因子との関係を調べました。その結果、食品とサプリメントの両方からのマグネシウム摂取量が多いほど、肥満度が低く、腹囲が細く、HDLコレステロール値が高く、メタボリックシンドロームが少なく、収縮期血圧が低いという関連が見られました。(Papanikolaou Y, et al., (2014) Dietary magnesium usual intake is associated with favorable diabetes-related physiological outcomes and reduced risk of metabolic syndrome: An NHANES 2001-2010 analysis. J Hum Nutr Food Sci 2014 October 15;2(3): 1038.)

実践的ガイドライン

マグネシウムを豊富に含む食事は、野菜、豆類、全粒穀物、ナッツ類(とくにアーモンド)および種子類(ゴマなど)を豊富に含むものであるため、様々な効果をもたらしそうです。しかし、食事から摂るマグネシウムについて推奨されている量は、多くの専門家が適正と考える量より低く、このような理由から、マグネシウムのサプリメントを摂ると役立つ可能性が高いと思われます。私は、クエン酸マグネシウムやリンゴ酸マグネシウムと同じく吸収の良い形態であるアスパラギン酸マグネシウムを200 mg摂っています。炭酸マグネシウムや酸化マグネシウムは、それほど吸収が良くありません。



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全粒穀物による死亡率の低下

全粒穀物と穀物繊維については、多数のいわゆる専門家が、予防手段というより多くの疾患の原因となっていると示唆していますが、全粒穀物と穀物繊維の摂取量は、慢性疾患の発症リスクと反比例の関係にあり、実際に、ガン、循環器疾患、糖尿病、肥満および高血圧のリスクを下げます。最近公表されたある研究で、全粒穀物の摂取量と、全死亡率ならびに疾患別死亡率との関係を究明しようとしたものがあります。この研究には、NIH-AARP(米国国立衛生研究所の全米退職者協会)による食事健康調査の参加者で、1995年に登録され2009年まで追跡された367,442人のデータが含まれました。

平均追跡期間は14年で、その間に46,067件の死亡が記録されました。全粒穀物の摂取量が最も少なかった被験者グループと比較して、その摂取量が最も多かったグループでは、原因を問わない死亡のリスクが17%低くなっていました。疾患別の死亡リスクの低下率は、11%~48%の範囲にありました。一方、穀物繊維の摂取量が最も多かったグループでは、原因を問わない死亡のリスクは19%低くなっており、疾患別の死亡リスクの低下率は15%~34%の範囲にありました。この研究の論文執筆者は、全粒穀物の摂取量を増やすことと、精製炭水化物(主に精白小麦と白砂糖)の摂取量を減らすことを提言しています。(Huang T, et al., Consumption of whole grains and cereal fiber and total and cause-specific mortality: prospective analysis of 367,442 individuals. BMC Med. 2015 Mar 24;13:59.)

同じような結果が得られた、全粒穀物関連の別の研究について、英語版2月号(日本語版3月号)でご紹介しましたが、上記の研究結果はそれに加わるものです。そのときご紹介した前向き研究は、11,800人超の男女を対象として26年間追跡したもので、その結果、全粒穀物の摂取量が最も多かったグループでは、最も少なかったグループと比較して、総死亡率は9%、循環器疾患による死亡率は15%低くなっていました。その研究では、他の研究とは違い、ガンによる死亡率の低下は見られませんでした。

実践的ガイドライン

私が全粒穀物の効果を初めて認識したのは1970年代前半で、臨床医として開業する前でした。それ以来、私は、精白小麦粉と白米(ならびに砂糖やその他の過度に加工された食品)を摂らないようにしています。患者さんにも、その後ずっと、同じことを勧めています。

全粒穀物をおいしく、健康に良いように調理する方法はたくさんあります。全粒穀物には、全粒小麦、玄米、トウモロコシ、ライ麦、オート麦、大麦、キビ、キノア(人気上昇中の多用途穀物)などがあります。ソバの実、アマランスおよびワイルドライスは、厳密には穀物ではありませんが、調理性と栄養的な側面が穀物と似ているため、穀物の仲間に関連付けられています。オートミールは、シンプルな全粒穀物食の一つであり、これにナッツやレーズン、バナナなどの食材を加えれば、多彩な味が楽しめます。

私の同僚の中には、穀物一般、とくに小麦について、脳の変性をはじめとする慢性疾患との関連で、危険の原因となるという主張を大々的に書いている人もいます。確かに、小麦、ライ麦、大麦、カムート小麦、スペルト小麦に含まれるタンパク質の一種であるグルテンに重度の過敏性を持つ人はいますが、上記のような見解は、疫学研究や前向き分析によるデータによる裏付けがありません。

グルテン過敏症(セリアック病)の発症率は、北米人口の約1%ですが、診断されていないケースもあるため、実際の発症率はもう少し高いかもしれません。グルテンとは無関係の穀物過敏症を持つ人もいるようで、その場合、対象の穀物を避けると気分が良くなるようです。(実際、穀物の他にも、あらゆる種類の食品について、アレルギーや過敏症の人はたくさんいます。) こうしたごく少数のセリアック病の人にとっては、グルテンフリーの製品を入手できることが重要ですが、そうした食品に当てられる市場スペースは、危険にさらされている人々の数に釣り合っていません。また、そうした食品の場合、なくしたグルテンの味や質感、口当たりのようなものをメーカーが再現しようとして、砂糖など、健康に良くない材料が入っているがよくあります。グルテンを避けるのと同じくらい、オーガニック食品を買うことにも関心を持っていただけたら、と思います。



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膵臓ガンのリスクを下げる栄養素

「欧州におけるガンと栄養素に関する前向き研究」(EPIC)から得られたデータにより、特定の栄養素が膵臓ガンのリスクを下げる可能性があることがわかっています。ある研究グループが、膵臓ガン患者446人について調べ、マッチングにより446人の対照群を設定しました。そして、血漿中のカロテノイド(α-カロテン、β-カロテン、リコピン、β-クリプトキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチンおよびルテイン)、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、レチノールおよびビタミンCの値を測定し、多変量解析を用いて調整した後、膵臓ガンのリスク評価を行いました。こうした変量には、血液採取時の年齢、性別、絶食状態、ホルモン剤の使用、ならびに喫煙歴、腹囲、糖尿病の状態が含まれました。

その結果、β-カロテン値が最も高かったグループでは、最も低かったグループと比較して、膵臓ガンのリスクが48%低くなっていました。ゼアキサンチンについても、同様の比較にて47%のリスク低下が見られました。また、α-トコフェロールの値が高かったグループでは、膵臓ガンのリスクが38%低くなっていましたが、これは、完全には統計的に有意な域に達していると言えません。(Jeurnink SM, et al., Plasma carotenoids, vitamin C, retinol and tocopherols levels and pancreatic cancer risk within the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition: a nested case-control study: plasma micronutrients and pancreatic cancer risk. Int J Cancer. 2015 Mar 15;136(6):E665-76.)

以前に行われた研究で、膵臓ガンのリスクと栄養素の摂取量との関連を調べたものがあります。その結果によると、食事日記の内容にもとづいて、ビタミンC、ビタミンEおよびセレンの摂取量が上位4分の3にあると判断されたグループでは、下位4分の1とされたグループと比較して、膵臓ガンの発症リスクが67%低くなっていました。ビタミンCについては、血清ビタミンC値が高いグループでは33%リスクが低いという関連が見られましたが、これは、被験者の食事日記と相関していませんでした。(Banim PJ, et al., Dietary antioxidants and the aetiology of pancreatic cancer: a cohort study using data from food diaries and biomarkers. Gut. 2013 Oct;62(10):1489-96.) 食事日記にサプリメントが含まれていたか不明であるため、血清ビタミンC値のほうが、より正確にビタミンC摂取量を反映していることになります。

実践的ガイドライン

重要な微量栄養素を豊富に含む食事が疾患のリスク低下と関係していることが、ここでも示されています。ビタミンCとビタミンE、ならびにカロテノイド、セレン、トコフェロールの血中値をさらに高めるサプリメントを摂れば、ガンを含め、慢性疾患の予防にさらに大きな効果が得られる可能性は十分にあります。
  

2015年06月12日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2015年12&1月 Winter号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。

今月の話題
・ビタミンD値が高いほど下がる死亡率
・ビタミンDが認知症のリスクを下げる可能性
・心房細動に対する運動の効果と肥満の影響
・股関節部骨折のリスクを下げるビタミンE
・ナイアシンとリポタンパク




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ビタミンD値が高いほど下がる死亡率

新しい研究で、血清中のビタミンD値と、全死亡率、循環器疾患、呼吸器疾患、ガンおよび骨折との関係を調べたものがあります。これは、英国のノーフォーク地方に住む42~82歳の男女14,641人を対象とした13年間の集団調査にもとづく前向き研究で、その調査は1997年に始まり、2012年まで続きました。被験者は、25-ヒドロキシ・ビタミンD3(25(OH)D)としてのビタミンD値に応じて5等分されました。各グループの数値は、12 ng/mL(ナノグラム/ミリリットル)未満、12~20 ng/mL、20~28 ng/mL、28~36 ng/mL、36 ng/mL以上というものでした。

その結果、最下位グループと比較して、ビタミンD値が高いほど、原因を問わない全死亡率が低くなる有意な傾向が見られました。下から2番目のグループでは、死亡リスクが最下位グループより16%低く、最上位のグループでは34%低くなっていました。多変量解析を用いて調整した結果、25(OH)D値が8 ng/mL増えるごとに、全死亡率は8%低下、心疾患については4%、呼吸器疾患は11%、骨折は11%少なくなると計算されました。一方、ガンとの関連は見られませんでした。(Khaw KT, et al., Serum 25-hydroxyvitamin D, mortality, and incident cardiovascular disease, respiratory disease, cancers, and fractures: a 13-y prospective population study. Am J Clin Nutr. 2014 Nov;100(5):1361-70.)

死亡率の低下率が最も大きかったのは、ビタミンD値が36 ng/mL以上であったグループでした。48 ng/mLを超えていた被験者は全体の1%もいませんでしたが、高ビタミンD値が多少なりとも死亡率の増加に関連していることの証拠は、全く見られませんでした。ビタミンD評議会によると、ビタミンD値は 30 ng/mLを下回ると不足とみなされ、最適値は、出典によって異なり30~100 ng/mLの範囲に及んでいます。150 ng/mLを超えると有毒値とされます。


実践的ガイドライン

私はいつも、40~80 ng/mLを理想的な範囲としているので、36 ng/mLという目標値は低いように思われます。ビタミンD評議会は、40~80 ng/mLを十分な範囲として推奨しています。血液検査を受けて自分のビタミンD値を知り、サプリメントで十分な量のビタミンDを摂って、50 ng/mLという理想的な数値まで高めることが大切です。十分なビタミンDを食事と日光だけから摂るのは難しく、とくに、年齢を重ねたり、緯度の高い地域に住んでいたりする場合はそうです。合成のビタミンD2ではなく、必ず、天然のビタミンD3を摂りましょう。

研究論文にあるビタミンD値を自分の血液検査結果と比較する場合は、検査数値の単位と研究での単位が同じであるか注意して確かめましょう。血清値の単位であるナノグラム/ミリリットル(ng/mL)は、ナノモル/リットル(nmol/L)とは異なります。例えば、10 ng/mL=25 nmol/Lです。研究報告の多くは、nmol/Lを用いています。また、血液検査では、1,25(OH)2Dではなく25(OH)D3を調べることを確認しましょう。




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ビタミンDが認知症のリスクを下げる可能性

ビタミンDに関する別の新しい研究によると、ビタミンDは、認知症とアルツハイマー病のリスクを下げる可能性があるということです。この研究は、調査の開始時点で認知症も循環器疾患も脳卒中もなかった高齢通院患者1,658人について調べ、平均5.6年間追跡したものです。追跡期間中、原因を問わない認知症の発症者は171人で、そのうち102例はアルツハイマー病でした。(Littlejohns TJ, et al., Vitamin D and the risk of dementia and Alzheimer’s disease. Neurology 2014 Sep 2;83(10):920-8.)

重度の欠乏症と見なされたグループでは、ビタミンD値が10 ng/mLを下回っており、ビタミンD値が20 ng/mL以上であったグル―プと比べて、原因を問わない認知症の発症リスクが2.25倍高くなっていました。ビタミンD値が10~20 ng/mLの範囲にあったグループでは、20 ng/mL以上であったグル―プと比べて、そのリスクが53%高くなっていました。アルツハイマー型認知症のリスクについては、ビタミンD値が欠乏域(10 ng/mL未満)にあったグループでは2.22倍になっていました。10~20 ng/mLのグループでは、20 ng/mL以上のグル―プと比べて、そのリスクが69%高くなっていました。


実践的ガイドライン

上記の研究をはじめとする多くの研究結果から、ビタミンDは、骨の健康維持だけでなく、それをはるかに超えた役割を果たすことは明らかです。私が勧めているのは、この2つめの記事にあるとおり、ビタミンD評議会の推奨範囲内にビタミンD値を保つことです。そのためには1日5,000 IUをサプリメントで摂ることをビタミンD評議会は推奨していますが、これはかなり変わりやすいので、自分の必要量はそれより多い場合も少ない場合もあります。

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心房細動に対する運動の効果と肥満の影響

心房細動は、最も一般的な心不整脈です。左心房(左心室に隣接する心腔)は通常、電気信号を伝えるその特殊な繊維組織の一部を介して拍動を起こします。 様々な原因によって、左心房が、拍動する代わりに小刻みに震えると、左心室がその「代理として」自己の拍動を始めてしまいます。その拍動は不規則であり、非常に速い場合も多く、また、収縮を完全に調整する機能がないため、心臓機能全体の効率は、正常時ほど良くありません。症状としては、動悸、倦怠感、息切れが考えられますが、全く症状がない場合もあります。心房細動が(数分から数日に至るまで)様々な期間にわたって断続することもあり、これは発作性心房細動と呼ばれます。また、たとえ電気ショックや薬剤で解消することができても、永続性心房細動となったり、細動が持続したりする場合もあります。

心房細動の最中、拍動していない心房に血液が溜まって血塊ができることがあります。時として、こうした血塊が移動し、脳に送られたり(脳卒中)、腹部器官に送られたりする場合があります。そのため、持続性心房細動がある人(1週間以上持続し、他にもリスク因子がある人)には通常、抗凝固薬(クマディン、通称ワルファリン)が処方されます。この薬は、確かに一部の殺鼠剤の活性成分として使われていますが、正しい量で使用すれば、心房細動患者における血塊関連の脳卒中リスクが実際に下がります(ただし、出血や青アザ、または出血による脳卒中のリスクはわずかに高くなります)。クマディンより新しい薬には、血液凝固を抑制する作用もありますが、はるかに高価であり、クマディンほど使用年数が長くありません。また、クマディンは、血液凝固におけるビタミンKの作用を抑制することによって効くことから、ビタミンKを摂ることは、過度の出血を防ぐ手段となります。こうした新しい薬には、予防効果はありません。

肥満は、心房細動の発症に対する独立したリスク因子です。ウーマンズ・ヘルス・イニシアティブ(米国の国立衛生研究所による、女性の健康に関する研究調査)にて、閉経後の女性93,676人を平均11.5年追跡した調査が行われました。ここでは、肥満と身体活動度との相互作用、ならびにそうした相互作用と心房細動の発症率との関連性を調べるため、被験者の入院記録、メディケア(米国の高齢者向け医療保険制度)の支払請求書による診断コードを用いて被験者の分析が行われました。被験者の一部は、すでに心房細動の罹患歴があった、データが揃っていない、または低体重であるという理由で除外されました。残りの女性81,317人の平均年齢は63.4歳で、そのうち、アフリカ系アメリカ人の割合は7.8%、スペイン系アメリカ人の割合は3.6%でした。このグループ全員のうち、9,792人が心房細動を発症しました。

この調査では、体格指数(BMI)が高いほど、また、身体活動度が低いほど、心房細動のリスクが増加するという独立した関連性が見られました。肥満である被験者の中では、身体活動度が高いほど、体重に伴う心房細動のリスクが低くなっていました。(Azarbal F, et al., Obesity, physical activity, and their interaction in incident atrial fibrillation in postmenopausal women. J Am Heart Assoc. 2014 Aug 20;3(4).) 1日30分ほど速足で歩いたり、少し自転車に乗ったりするだけでも、効果はあります。肥満の被験者グループでは、身体活動度が上がるたびに、心房細動の予防効果が大きくなっていました。一方、それほど肥満度が高くないグループでも、いくらかの効果が見られました。こうした研究が行われる前は、運動が心房細動を引き起こすのでは、という懸念が一部ありましたが、この研究は、その反対であることを示しています。


実践的ガイドライン

周知の事実ですが、運動は、慢性疾患の予防に最も役立つ生活習慣改善策の一つです。ウォーキングも、サイクリングも、ランニングも、ダンスも、ガーデニングも、家事もすべて、週の全活動時間にプラスされます。運動量が多いほど、多くの効果が得られますが、自分の体を守るためには、マラソンや真剣な競技をしなければならないわけではありません。運動は、炎症、インスリン抵抗性、高血圧、血中脂質異常、内皮機能不全というような他のリスク因子の低減にも役立ちます。こうした効果は、体重減少とは別ものですが、体重減少との関連はよく見られています。

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股関節部骨折のリスクを下げるビタミンE

食事とサプリメントでビタミンEを摂ると、慢性疾患の症状軽減や予防に多くの効果があり、心臓関連死、間欠性跛行(動脈硬化による歩行時の足の痛み)、関節リウマチ、パーキンソン病、アルツハイマー病にも効果があることがわかっています。ある新しい研究によると、股関節部骨折のリスクを下げる可能性もあるということです。この研究は、65~79歳の男女21,774人について調べ、最長11年間追跡したもので、後に股関節部骨折を経験した被験者1,168人の調査開始時における血清ビタミンE(α-トコフェロール)値に注目し、股関節部骨折のなかった被験者から無作為に抽出した被験者1,434人の数値と比較する方法で行われました。

このノルウェーの研究では、血清ビタミンE値は22.6~38.3マイクロモル/リットル(μmol/L)という範囲にあり、骨折リスクとは反比例の関係が見られました。血清ビタミンE値が下位4分の1にあったグループでは、股関節部骨折のリスクが、上位4分の1にあったグループより51%高くなっていました。(Holvik K, et al., Low serum concentrations of alpha-tocopherol are associated with increased risk of hip fracture. A NOREPOS study. Osteoporos Int. 2014 Nov;25(11):2545-54.) ビタミンEは、フリーラジカルによる損傷から細胞膜と血中脂質を守る強力な抗酸化物質です。酸化ストレスは、骨粗しょう症や骨折の一因と考えられており、こうした理由でもビタミンEは役立つ可能性があるのです。


実践的ガイドライン

サプリメントを摂らずに血清ビタミンE値を最高レベルに保つのはほとんど不可能です。ビタミンEを最も多く摂ることができる食品には、ヒマワリの種、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ピーナツバター、ホウレンソウ、ブロッコリーなどがあります。上記の研究で用いられたα-トコフェロールは、ビタミンEの一つの形態に過ぎず、幅広い効果を得るためには、他の形態であるβ-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールも同じくらい重要、もしくはもっと重要かもしれません。私は、γ-トコフェロールを多く含む混合型のトコフェロールを1日400~800 IU摂ることを勧めています。ビタミンEと死亡率増加との関連を示唆した研究が数年前にありましたが、これは分析方法が不正確で報告内容が不十分であったため、信頼することができません。

神経疾患の場合は、もっと用量を増やすよう勧めています。いくつかの研究で、パーキンソン病の治療を目的として1日当たり3,200 IUのビタミンEが(3,000 mgのビタミンCと併せて)用いられ、そのサプリメント投与によって、投薬治療が必要となる時期が2.5年遅くなることがわかっています。アルツハイマー病については、2,000 IUのビタミンEか薬剤(セレギリン)のいずれか、もしくはその両方を被験者に与えて、死亡、施設収容、機能低下または重度認知症という転帰について調べた研究があります。その結果、ビタミンEのみを与えた場合のほうが、セレギリンのみを与えた場合やセレギリンとビタミンEを併せて与えた場合よりも効果があり、転帰の発生が約2年遅くなることがわかっています。

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ナイアシンとリポタンパク

リポタンパク(a)は、英語では「リポプロテイン・リトル・エイ」と呼ばれ(またはLp(a)と書かれ)、循環器疾患の独立リスク因子である血清脂質の一つです。血中リポタンパク値は、ほとんど遺伝によって決まりますが、エストロゲン、ナイアシン(ビタミンB3)、一部の複雑な治療法、高額もしくは実験的な治療法の影響を受けることがあります。生活習慣やスタチン薬による影響はありません(といっても、食事面と運動面での生活習慣の選択が循環器疾患のリスクに影響を及ぼすことは確かです)。(Bos S, et al., Latest developments in the treatment of lipoprotein (a). Curr Opin Lipidol. 2014 Oct 14. [印刷物に先行した電子出版]) 1955年以降に行われた諸研究により、ナイアシンは血清コレステロール値を下げ、HDLコレステロール値を上げることから、循環器疾患のリスク改善をもたらすことがわかっています。

遡って、1986年に公表された冠動脈疾患薬プロジェクトの報告内容によると、8,341人の男性を対象として6年間続けられた試験では、薬剤よりナイアシンのほうが心臓発作率を下げる効果が高かったということです。その試験の終了から9年後である、15年間の追跡期間の終了時点では、ナイアシンを与えたグループはプラセボグループと比較して死亡率が11%低くなっていました。(Canner PL, et al., Fifteen year mortality in Coronary Drug Project patients: long-term benefit with niacin. J Am Coll Cardiol. 1986 Dec;8(6):1245-55.)

糖尿病患者におけるナイアシン療法について最近行われた研究レビューでは、ナイアシンにより、HDLコレステロール値は27%、LDLコレステロール値は25%、トリグリセリド値は39%低下したことがわかっています。(Ding Y, et al., Effect of niacin on lipids and glucose in patients with type 2 diabetes: A meta-analysis of randomized, controlled clinical trials. Clin Nutr 2014 Sep 28. pii: S0261-5614(14)00247-7. doi: 10.1016/j.clnu.2014.09.019. [印刷物に先行した電子出版].)

最近公表された別の研究では、ナイアシン療法がLDLコレステロール値とILDとIDL(中間比重リポタンパク)の有意な低下をもたらしたこと、および心臓発作の有意な低下との関連が見られたことが示されています。(Zambon A, et al., Effects of niacin combination therapy with statin or bile acid resin on lipoproteins and cardiovascular disease. Am J Cardiol. 2014 May 1;113(9):1494-8.)


実践的ガイドライン

ナイアシンは、ヒスタミンを突然放出させることから、約20~40分間にわたる皮膚の紅潮(フラッシング)を引き起こします。フラッシングは有害ではありませんが、不快な場合があります。持続放出型のナイアシンのほうが通例、フラッシングは少なくなります。また、ナイアシンを常用すると、耐性ができるため、フラッシングの発生頻度が減るか、または全く生じなくなります。「ノンフラッシュ」型のナイアシン(イノシトール・ヘキサニコチネート)は、フラッシングを生じることなく脂質低下に効果があると考えられていましたが、ヒトの場合はうまくいかないことが判明しました(とはいえ、ナイアシンがビタミンとしてもたらすその他の効果はほとんど得られます)。

私は、予防薬として、持続放出型のナイアシンを1日2回、500 mgずつ摂っていますが、精神上の健康効果を得るためなら、それ以上の量を摂るよう勧めることが多く、脂質改善の目的であれば、通例、1日2,000~3,000 mgを摂るよう勧めています。最初はもっと少ない量から初め、徐々に増やしていってもよいでしょう。それでも、常用するようになるまではフラッシングを経験するかもしれません。

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2015年05月27日

ドクターからの『毎日健康ニュース』2015年3月号

ヘルシーリビング


*ドクター・ジャンスンが米国において執筆しているニュースレターを翻訳したものです。日米の食文化、栄養療法あるいは規制の違いにより、日本では入手が不可能な商品についても、原文に忠実に翻訳しておりますことをあらかじめご了承ください。
*また当社はヘルシーリビングにおいて特定商品の医学的な効果効能を説明したり、批判したりする立場にはございません。
尚、ヘルシーリビングに書かれているハーブ、ビタミン類を、ご自身で摂取される場合は、個々の商品の注意書きに従って下さい。


2015年3月号グリセミックインデックスは心疾患リスクに影響を及ぼすか?

今月の話題
・グリセミックインデックスは心疾患リスクに影響を及ぼすか?
・運動は健康に役立つか?
・スタチン薬関連の筋肉痛に対するコエンザイムQ10の効果
・全粒穀物は死亡リスクを下げる
・ビタミンEが血圧にもたらす効果





グリセミックインデックスは心疾患リスクに影響を及ぼすか?

グリセミックインデックスとは、ある食品が、その摂取直後に血糖(グルコース)に及ぼす影響度を示した指標です。グリセミックインデックスが高い食品を摂る食事法は、LDLコレステロール、トリグリセリド、総コレステロールなど、心疾患のリスク要因となる数値を高めると考えられてきました。しかし、そうとは限らないことが、ある新しい研究で示唆されています。その研究は、血圧が正常~やや高めである過体重の成人163人について調べたもので、食事、間食、およびカロリーを含む飲料をすべて含めた4パターンの食事を被験者に実践させました。
どの被験者にも、この4パターンの食事がそれぞれ5週ずつ与えられ、各パターンの切替え時には小休止がありました。これは、比較摂食試験であって、アンケートや記憶には依存していませんでした。


上記の食事はすべて、健康に良いDASHタイプの食事(高血圧症の予防・改善のための食事法)を土台としたもので、それを変化させて、それぞれ「高炭水化物・高グリセミックインデックス」、「高炭水化物・低グリセミックインデックス」、「低炭水化物・高グリセミックインデックス」、「低炭水化物・低グリセミックインデックス」の食事となるようにしました。そして、結果を示す数値として、インスリン感受性、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、トリグリセリド、および収縮期血圧が調べられました。(Sacks FM, et al., Effects of high vs low glycemic index of dietary carbohydrate on cardiovascular disease risk factors and insulin sensitivity: the OmniCarb randomized clinical trial. JAMA. 2014 Dec 17;312(23):2531-41. doi: 10.1001/jama.2014.16658.)


炭水化物を多く摂る食事の場合、実際にグリセミックインデックスが低いほうが、インスリン感受性は低く、LDLコレステロール値は高くなっており、その他の測定値には違いはありませんでした。低炭水化物食の場合は、高グリセミックインデックス食品と比較して低グリセミックインデックス食品では、トリグリセリド値が91 mg/dLから86 mg/dLに下がったという、わずかながらも有意な変化があった以外、結果への影響は見られませんでした。対照的な食事(低炭水化物・低グリセミックインデックス食と高炭水化物・高グリセミックインデックス食)の比較では、収縮期血圧、HDL・LDLコレステロール値、およびインスリン感受性については食事の影響はありませんでしたが、トリグリセリド値には、111 mg/dLから86 mg/dLという有意な低下が見られました。


全体として見た場合、基本的に健康に良い食事(野菜・マメ科植物・全粒穀物・果物を多く含み、塩分と動物性食品の量が少ない食事)を摂っていれば、グリセミックインデックスは食事の選択に役立つ手掛かり とはならない、とこの論文執筆者は結論付けています。


実践的ガイドライン

1950年代にデニス・バーキット博士が現地アフリカ人の調査を行ったとき、彼らは、ジャガイモ、バナナ、コーンミール、豆類を主食としており、心疾患、高血圧症、脳卒中、糖尿病、結腸ガン、虫垂炎、憩室炎はほとんど見られませんでした。バーキット博士は、その理由を、食事に大量の食物繊維(1日当たり約100グラム)が含まれているためと考えました。米国における成人の食物繊維摂取量は、1987年では1日当たり約11グラムでしたが、2001年までには16グラムまで増え、2010年までわずかに増加し続けました。しかし、2012年には推奨される食物繊維摂取量を満たしていた米国人は3%にすぎませんでした。しかもそれは驚くほど低く、1日当たりわずか14グラムとなっています。(その後のガイドラインで、20~50歳については1日当たり37グラムまで引き上げられました。)


グリセミックインデックスを気にするよりも、食物繊維を多く含む食事を選ぶことのほうが重要です。食物繊維は、果物、野菜、全粒穀物、豆類、種子類、ナッツ類に含まれています。こうした食事を選べば、体重の抑制に優れた効果がありますが、体重を増やす必要があるという少数の人の場合は、アボカドやセサミタヒニ(練りゴマ)、ピーナツバター、ナッツ類を増やすという方法もあります。動物性食品(肉食品、乳製品、卵)には、食物繊維は全く含まれていません。




運動は健康に役立つか?

ジムで隣のマシンを使っていた人が、運動は体に良いに違いないとは思っているものの運動嫌いのため、しぶしぶ運動していました。最近彼女は、あるニュース記事で、「運動しても長生きには役立たない」ことを示す研究について報じられていることに気付きました。その記事によると、「週4時間運動した人も、全く運動しなかった人も、死亡率は変わらなかった」ためということです。私には、これが本当らしく聞こえなかったので、その報道と記事について調べたところ、そうした結論(そして変わったかもしれない一般市民の態度)に十分な根拠はありませんでした。
このニュース記事で実際に報じていたのは、1週当たり2.4時間までの運動を3回に分けて行うと、実際に寿命を延ばす効果が得られる、ということでした。ジョギングをする人たちは、1マイル(約1.6km)12分(時速5マイル(約8km))というペースが最適であることを経験上知っています。しかし、このニュース記事ではさらに進んで、ペースについては、自分の運動が「低速か、平均か、高速か」という被験者の自己申告に基づいて研究グループが推測した、と指摘していました。また、被験者の年齢は20歳から95歳に及んでいました。(2015年2月2日付 HealthDay News)


この研究は、ジョギングをしている健常者1,098人と、ジョギングをしていない健常者3,950人について12年間追跡して調べた、コペンハーゲン市心臓研究の一環でした。(Schnohr P, et al., Dose of jogging and long-term mortality: the Copenhagen City Heart Study. J Am Coll Cardiol. 2015 Feb 10;65(5):411-9. doi: 10.1016/j.jacc.2014.11.023.) ジョギングをしておらず、座りがちな生活をしている被験者グループと比較した場合、週に1~2.4時間運動しているグループが最も死亡率が低く、この調査期間中に死亡する可能性が71%低くなっていました。また、「激しい」ジョギングをしていると回答した被験者グループは、運動をしていないグループと、死亡率がほとんど変わらないこともわかりました。(これは、他のいくつかの研究で見られた結果に反しています。)


この研究については、いくつかの批評が出されました。そのうち、1つは同じ雑誌の論説欄に見られ、また、ニューヨークタイムズの記事自体およびその報告のコメント欄(2015年2月4日付ニューヨークタイムズ)にも、いくつか見られました。問題の一つは、激しいジョギングをしている被験者グループに入っていた被験者数が80人に過ぎなかったことです。この雑誌の記事に付随していた論説にて、DCリー博士は、激しいジョギングをしていたグループの被験者数が少なかったことの他にも、多くの欠陥を指摘していました。彼はしかし、この記事によって一部の人はたとえ少しでも運動する気になるかもしれず、少しの運動でも、完全に座ってばかりいるよりは多くの健康効果が得られるだろう、とも指摘していました。


リー博士はこの他にも、昨年8月、別の完全な論文を発表しており、運動によって、原因を問わない死亡率(総死亡率)も、循環器疾患による死亡率(心血管系死亡率)も下がることを示しています。この研究は、18~100歳の成人55,137人を15年間追跡して調べたもので、この中にはランニングをしている人が13,000人以上含まれていました。ランニングをしていないグループと比べて、ランニングをしているグループでは、総死亡率が30%、心血管系死亡率が45%低くなっていました。この研究では、ランニングの量が多いほど、量と反応の関係で効果が得られることがわかりました。つまり、運動するほど大きな効果が得られるという意味です。(Lee DC, et al., Leisure-time running reduces all-cause and cardiovascular mortality risk. J Am Coll Cardiol. 2014 Aug 5;64(5):472-81.)


実践的ガイドライン

運動が嫌いな人は、この報告の見出しに飛びつき、運動は必要ないという結論を下すでしょう。これは正当な結論ではありません。でも、私の同僚であるジョン・マクドゥーガルが言うように、「人は自分の悪習慣について良いことを聞きたがる」のです。何らかの負荷運動と有酸素運動を含めた運動を定期的に行えば、多くの健康効果、ならびに早死にするリスクを下げる効果があることに変わりはありません。一般に、運動はすればするほど良いのです。上記のニュース記事は、実際に研究の欠陥について報じていましたが、記事をもっと深く読んで、ほとんどどのようなレベルの運動でも体に良いということを見破らねばならなかったのです。




スタチン薬関連の筋肉痛に対するコエンザイムQ10の効果

コエンザイムQ10(CoQ)は、スタチン薬による副作用、とくに、最もよく見られる弊害の一つであるミオパシー、つまり筋肉痛を軽減する可能性があります。スタチン薬は、血清CoQ値を低下させますが、CoQのサプリメントを摂ればその回復に役立つことが、多くの研究でわかっています。ある対照研究では、スタチン薬治療による筋肉痛があったと回答した50人の患者が集められ、その半分の人には1日当たり50 mgのCoQを30日間与え、残りの半分にはプラセボを与える試験が行われました。


この試験の開始時点で、患者は、簡易疼痛調査票(BPI)に記入し、血液検査を受けました。この記入と検査は、試験の終了時にも行われました。30日後の時点で、CoQを施したグループでは、疼痛重症度スコア(PSS)が3.9から2.9に低下し、疼痛障害スコア(PIS)も4.0から2.6に低下していました。対照グループでは、どちらのスコアにも変化は見られませんでした。全体的に見て、CoQのサプリメントにより、75%の患者において、スタチン薬関連の筋肉症状が軽減されました。(Skarlovnik A, et al., Coenzyme Q10 supplementation decreases statin-related mild-to-moderate muscle symptoms: a randomized clinical study. Med Sci Monit 2014; 20:2183-2188.)


スタチン薬によって誘発されるミオパシー症状に対するCoQサプリメントの効果を調べたメタ分析の結果が1月に公表されました。これは5本の研究論文を調べたもので、被験者の総数は合わせて253人でした。5本のうち2本の研究論文で、CoQには筋肉痛に対する統計的に有意な効果が見られており、また、どの研究論文でも、痛みの何らかの減少が見られました(もしこうした効果がランダムなものであるなら、痛みが増したことや、変化がそれより少なかった、または無かったことを示す研究結果があってもよいでしょう)。全体的に見て、CoQの用量は50~300 mgの範囲にありました。執筆者の報告によると、筋肉痛が減少する「傾向」は見られましたが(実際に53%減少していました)、これは「統計的に有意な」結果ではありませんでした。痛みが減少した患者にとっては、そのことが重要であったに違いないと私は思います。(Banach M, et al., Effects of coenzyme Q10 on statin-induced myopathy: a meta-analysis of randomized controlled trials. Mayo Clin Proc. 2015 Jan;90(1):24-34.)


実践的ガイドライン

スタチン薬を飲んでいる患者さんは、治療のためにCoQを試してみるのが賢明と思われます。CoQは、きわめて高用量に至るまで、何の副作用も及ぼしません。CoQの摂取は、うっ血性心不全と高血圧症に対する効果的な治療法で、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経障害にも効果があり、少なくとも1日当たり2,400 mgまで摂っても安全であることが複数の研究で示されています。好ましい形態として私が勧めているのはユビキノールで、通常は100~200 mgずつ、1日1~2回摂ると良いでしょう。神経障害の場合は、もっと多く摂ることをお勧めします。CoQには、何のリスクもなく、効果の証拠はあるため、これを試さない理由は見当たりません。医師たちが施している治療法の多くは、CoQよりもリスクが高いのに、それを上回る効果があることを示す証拠がありません。それなのに、医師たちはなぜCoQを勧めたがらないのか、しばしば不思議に思います。




全粒穀物は死亡リスクを下げる

またしても、全粒穀物が医学ニュースで取り上げられています。全粒穀物には、糖尿病や心疾患など、重大な慢性疾患のリスク低下との関連が見られています。ある前向き研究に関する新しいレポートによると、看護師保健調査の被験者である女性74,341人と、医療従事者追跡研究の被験者である男性43,744人を対象とした調査が行われました。被験者は全員、調査開始の時点では循環器疾患もガンもない状態であり、この調査は24~26年続きました。有効性が確認されているアンケートを用いて、全粒穀物の摂取量を調べ、この情報は2~4年ごとに更新されました。


この調査期間中に、26,920人の死亡が記録されました。年齢、喫煙、体格指数、身体活動度、健康的食事指数のスコアを含む、いくつかの交絡変数について調整したところ、全粒穀物の摂取量には、全死亡率および循環器疾患による死亡率の低下との関連が見られましたが、ガンによる死亡率との関係は見られませんでした(ただし、他の研究ではガンの予防効果が見られています)。(Wu H, et al., Association between dietary whole grain intake and risk of mortality: two large prospective studies in US men and women. JAMA Intern Med. 2015 Jan 5. doi: 10.1001/jamainternmed. 2014.6283. [印刷物に先行した電子出版])


全体としては、全粒穀物の摂取量が上から5分の1に入っていた被験者グループは、下から5分の1にあったグループと比較して、総死亡率が9%低いことがわかりました。この上位5分の1のグループでは、循環器疾患による死亡率は15%低くなっていました。1日当たりの全粒穀物摂取量が1皿(28グラム=1オンス)増えるごとに、全死亡率は5%、循環器疾患による死亡率は9%低下する、とこの研究グループは推定しています。


実践的ガイドライン

誰もがそろそろ、精製炭水化物(とくに精白小麦粉と精白糖)の危険性に気付いているかと思います。残念ながら、多くの人は、すべての穀物を「炭水化物」と考えていて、全粒穀物と精製穀物(全粒小麦粉と精白小麦粉、玄米と白米)を区別できていません。私の同僚の多くも、その違いを無視してニュースレターや本を執筆しており、全粒穀物には健康に多大な効果があることを示す、上記のような文献を無視しているのです。


全粒穀物には、食物繊維、フィトケミカルおよび必須脂肪酸が含まれており、そのすべてが、全粒穀物の健康効果に一役買っています。私が日常的に摂ることを勧めているのは、全粒小麦、ライ麦、大麦(ただし、セリアック病や、それ以外でグルテンに敏感な体質である場合を除く)、ならびに、オート麦、玄米、全粒トウモロコシ、キビ、ソバの実、キノアなど、グルテンを含まない穀物です。常に精製穀物は避けましょう。




ビタミンEが血圧にもたらす効果

ビタミンEは、健康に数多くの有益な効果をもたらす、優れた生物学的抗酸化物質です。その効果の一つに、血圧の抑制があります。日本での研究で、2007年に実施された国民健康栄養調査から得られたデータを調べたものがあります。1,405人の男性と2,102人の女性のデータを対象とし、平均年齢は、男性が63.5歳、女性が62.4歳でした。被験者は、ビタミンEの摂取量に応じて、3分の1ずつ、「低」「中」「高」のグループにそれぞれ分けられました。
ビタミンEの摂取量が多いグループのほうが、高血圧症がある被験者の割合が低くなっていました。高血圧症がある確率は、「中」のグループでは27%低く、「高」のグループでは19%低くなっていました。 (Kuwabara A, et al., The association between vitamin E intake and hypertension: results from the re-analysis of the National Health and Nutrition Survey. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2014;60(4):239-45.)


こうした結果はすべての研究によって確認されているわけではありませんが、一部の研究では実際に確認されています。2002年には、ある研究グループが、盲検式プラセボ比較試験にて、軽度の高血圧症である被験者70人について調べました。この研究では、被験者に、1日当たり200 IUのビタミンEか、プラセボのいずれかを27週間与えました。試験の開始時と終了時に血中ビタミンE値を測定したところ、ビタミンEを与えたグループでは、試験終了の時点で、収縮期血圧に24%、拡張期血圧に12.5%の低下が見られました。プラセボグループでは、こうした測定値に実質的な変化はありませんでした。ビタミンEによって内皮細胞が保護され、血管を弛緩させる作用がある一酸化窒素の生成量が増加した、と研究グループは推測しています。(Boshtam M, et al., Vitamin E can reduce blood pressure in mild hypertensives. Int J Vitam Nutr Res. 2002 Oct;72(5):309-14.)


実践的ガイドライン

天然のビタミンE(合成型であるdl-α-トコフェロールではなく、d-α-トコフェロール)を摂れば、患者の血圧抑制に役立つ可能性があります。私は、1日当たり200~400 IUの量を摂ることをお勧めしています。神経疾患がある人は、もっと多く摂ると良いでしょう。様々な形態のビタミンEのバランスを自然に保つため、相当量のγ-トコフェロールを含めることも重要です。